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人類進化700万年の物語―私たちだけがなぜ生き残れたのか [著]チップ・ウォルター

[評者]島田雅彦(作家・法政大学教授)

[掲載]2014年06月29日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■手間をかけた教育、命運分ける

 絶滅危惧種の保護と生物多様性の維持に努力するのは、地球上でもっともはびこった人類の罪滅ぼしかもしれない。しかし、当の人類はといえば、ほかの動物のように種の多様性を保つことができなかった。ここ180年間の発掘調査で27種のヒト族の骨が発見されたが、今日まで生き延びて来られたのはホモサピエンスだけで、ほかの系統の種は全て絶滅してしまった。
 人類の直立歩行が脳の発達を促し、遠距離の移動や外敵からの逃走能力を向上させたことはよく知られているが、直立歩行に有利に働いたのは足の親指の奇形だったという議論も興味深い。木の枝をつかむには不利な真っ直(す)ぐな親指は人類を森の外へ誘い、さらには地球上のあらゆるところに新天地を切り拓(ひら)く素質を与えた。しかし、直立歩行をしていたほかの系統も滅び、現生人類だけが生き残ったのはなぜかという疑問が残る。
 その謎解きの現時点での答えを報告しているのが本書である。筆者がとりわけ熱心に紹介するのは、ヒトが未熟な状態で生まれてくることが環境適応に有利に働いたという説である。人類に特徴的な長い幼年時代は、生まれてすぐに立ち上がる馬などと較(くら)べて、親子で過ごす時間が極めて長い。教育や学習に膨大な時間と手間をかけることで、より多様な環境、状況に臨機応変に対応できるようになったことが、生き残りのカギになったというわけである。ホモサピエンスとある時期までは共生し、交雑もあったネアンデルタール人が滅んだのは、彼らがより早く大人になるように進化したことが裏目に出たからだという。
 氷河期到来で生存環境が厳しくなると、高度な知性の磨き上げが生き残りに有利に働いた。それはより具体的には互助の知恵であり、問題解決能力であり、また自然界にないものをも作り出す言語能力であった。民族存亡の命運もそこで分かれるに違いない。
    ◇
 長野敬・赤松眞紀訳、青土社・3024円/Chip Walter 科学ジャーナリスト。AllThingsHuman.netを創設。

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