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明治大正史(上・下) [著]中村隆英 [編]原朗・阿部武司

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年11月22日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■時代を作った人々から見た近代

 明治から大正の終わりまでは60年ほどになるが、本書は幕末から説き起こして、この60年を口語体で平易に解説している。2013年に死去した著者の口述記録を門弟が整理して著した書だが、著者の幅広い知識と啓蒙(けいもう)的な役割を改めて確認できる。
 明治・大正時代の素顔を実証的、人間的に見ていくと幾つもの発見がある。著者は総じて明治草創期の元勲たちに好意的なのだが、とくに伊藤博文には「やらなければいけないとなったら、無理にでもそういう政策をちゃんと実行するところがあった」と評価する。立憲主義は西園寺公望や原敬に引き継がれたとの見方が貴重である。
 さらに日本の近代化は他のアジア諸国とは異なり、他の国々は欧米と交流しても、そのような国になろうとはしなかったのに、日本は攘夷(じょうい)を捨てて開国を決めるや、「(欧米のように)なろう、学ぼうという姿勢をとる」というのである。日本のリーダーたちが揃(そろ)って西欧化を目指すところにこの国の強さと弱さが露呈しているということだろう。
 明治天皇が他の天皇と異なり、なぜ大帝と言われるのか、その分析もユニークである。御前会議でも表だった発言はしないで権威や貫禄を保つ、沈黙こそが有力な武器であった。それを意識しつつ臣下の者は懸命に職務をこなす、「結果として、明治時代は大きな間違いが起こらずに済んだ」と指摘する。
 著者の関心は、歴史の年表に刻まれている政治家、実業家、軍人、官僚、思想家、文化人、芸能人など何人にも及び、多くは相応の識見をもっていたとの人間観がある。逆に、日清戦争時の戦争太りで国家予算の7倍もの賠償金を獲得したことが、軍人のお国への奉公観を増長させたとの歴史上の定説を改めて想起させる。専門の経済史が下敷きになっているので、著者の史観は説得力をもつ。刺激的な「知」の書である。
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 東京大学出版会・各3240円/なかむら・たかふさ 1925〜2013年。元東京大名誉教授。『昭和史1・2』など。


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