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東京β―更新され続ける都市の物語 [著]速水健朗

[評者]加藤出

[掲載]2016年06月26日

[ジャンル]社会

表紙画像

■完成しない街、住人意識も複雑

 東京は世界的に見ても独特な都市である。第一に規模が巨大だ。隣接地域も含めた都市圏という概念で人口を数えれば、東京圏は世界一である。大型のオフィスビルやマンションがこんなにも続々と建設されているのも、成熟経済の先進国の首都では極めて珍しい。
 本書のタイトルは「東京β(ベータ)」である。ITの世界で永遠に完成しないことを「β」と呼ぶことに倣い、「完成せずに更新され続ける街をテーマにした都市論」という意味合いで「β」が付けられた。
 街の風景が変化し続ければ、住人の意識にも様々な変化が生じ得る。複雑で多層的なそれをあぶり出す手法として、著者は東京を舞台にした映画、ドラマ、小説、マンガを本書に大量に登場させている。
 「それらを全体として俯瞰(ふかん)すると、街の変遷のイメージが積み重なった地層をなす堆積(たいせき)物に見えてくる」。その中から「都市の記録の束を発掘することで、東京の変化を探る」ことが本書の狙いだ。その試みは成功しているといえる。
 例えば、晴海団地高層アパートでの空疎な「新しい生活」を描写した1962年の映画「しとやかな獣」、バブル期前夜のドラマ「男女7人夏物語」、タワーマンションにおけるママたちの“階級”(ママカースト)を描いた小説『ハピネス』、崩壊した家族同士が再開発を免れた下町で結びついていくマンガ『3月のライオン』は、いずれも臨海地域での物語である。
 それらの比較が、東京の人々の意識の変遷を明瞭に浮かび上がらせていた。また、ゴジラは東京湾に、ガメラは羽田に登場したことには本質的な違いがあったとの考察も目を惹(ひ)く。
 なお、ニューヨークにおける「ママカースト」の実情は、W・マーティン著『パークアヴェニューの妻たち』(講談社)が生々しく解説している。同書のニューヨーク論と本書の東京論を比較するとより興味深くなると思われる。
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 はやみず・けんろう 73年生まれ。ライター、編集者。著書に『フード左翼とフード右翼』『ラーメンと愛国』など。

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