金子兜太「あの夏、兵士だった私」書評 命を見つめる、骨太な声
評者: 蜂飼耳
/ 朝⽇新聞掲載:2016年09月18日
あの夏、兵士だった私 96歳、戦争体験者からの警鐘
著者:金子 兜太
出版社:清流出版
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784860294519
発売⽇: 2016/08/01
サイズ: 19cm/203p
あの夏、兵士だった私―96歳、戦争体験者からの警鐘 [著]金子兜太
九七歳になる俳人の金子兜太が、戦争体験を軸に据え、これまでの人生と俳句を語る。海軍に属して南方第一線を希望し、旧南洋諸島のトラック島に配属された若い日。その戦場は「郷土の期待」「祖国のために」などのスローガンや「美学」からはかけ離れた悲惨さに満ちていた。
終戦、捕虜生活を経ての帰還。社会や集団の決定や空気に、人間はいかにしてのみこまれていくのか、発言はどのように抑えこまれていくのか。観念や概念ではない、微妙な部分に関する実感が、言葉にされている点に注目したい。いま、この率直な語りは貴重だ。
一茶が使った「荒凡夫(あらぼんぷ)」という言葉を自然児・自由人と捉えて共鳴し、アニミズムに通じる「生き物感覚」を重視する著者は、土の上に生きることと俳句を結びつける。たとえば「おおかみに螢(ほたる)が一つ付いていた」という句の背景には「原郷」としての故郷・秩父がある。命を見つめる、骨太な声だ。