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「発達障害はなぜ誤診されるのか」書評 あいまいな境界 連続する症状

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2021年04月17日
発達障害はなぜ誤診されるのか (新潮選書) 著者:岩波明 出版社:新潮社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784106038631
発売⽇: 2021/02/25
サイズ: 20cm/220p

「発達障害はなぜ誤診されるのか」 [著]岩波明

 「親の育て方が悪いからだ」といった発達障害への誤解は減った。代わりに「片付けが苦手」というような一面的な特徴が独り歩きしている感は否めない。自身への反省を込めていえば、人を先入観で見てしまった経験もなくはない。
 本書で紹介される豊富な事例を読めば、生半可な知識で判断できるものではないことがよくわかる。
 自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠如多動性障害(ADHD)などベースにある発達障害と、二次的に発症するうつ病や依存症、統合失調症などの精神疾患。症状の類似や併存もあって診断を困難にしているというのが本書の基底をなす考えだ。
 例を挙げれば、大学院を卒業後、仕事に就いてから対人関係でつまずき、うつ病と診断される。思うように回復せず、成育歴をさかのぼって背後にあるASDにたどりつくという具合だ。支援や療育を経て、社会復帰を果たしているケースもあり、ささやかな希望を見いだすことができる。
 検査値や画像で判断する他の病気とは違って、精神科の診療は、本人の申告、医師の主観や経験に頼らざるを得ない。診断基準として使われることの多い米精神医学会の指針は、該当する項目の数で判定する。著者はそれらがもたらす弊害や限界を率直に認めたうえで、現状では信頼できる医師に巡り合えるまで、ときに病院を転々とすることもやむなしとする。
 とはいえ、スペクトラムという言葉に象徴されるように発達障害は本来、あいまいな境界を持ちながら連続していると考えるのが自然だ。米国の基準をそのまま当てはめてよいかも疑問が残る。
 境界領域で生きづらさを抱えている人も多かろう。コミュニケーション能力がもてはやされる一方、こうした人たちの潜在能力を社会で生かせないとしたら損失だ。著者自身、これまでの集大成に位置付けているが、続編を期待したい。
    ◇
いわなみ・あきら 1959年生まれ。昭和大医学部精神医学講座主任教授、同大附属烏山病院長。『発達障害』など。