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「教室における政治的中立性」書評 民主主義の担い手育てる議論を

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2021年05月29日
教室における政治的中立性 論争問題を扱うために 著者:ダイアナ・E.ヘス 出版社:春風社 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784861107184
発売⽇: 2021/03/05
サイズ: 22cm/340,4p

「教室における政治的中立性」 [著]ダイアナ・E・ヘス

 このテーマに関心を持つ研究者、親として、これは必読書だと手に取った。
 我が息子の通う小学校は、少数の保護者が反対する問題の議論を私が提案すると、「対立を生じさせる」として認めなかった。
 外国籍、親が闘病中という子どもの行動を心配する声が地域で上がった時には、個人情報の保護を理由に、「学校で対応するから、他の保護者は関わらないように」と言われた。
 対立や問題からこそ、学びが生まれる。より多くのことを知り、理解できるようになるというのに。
 人々が均質的な共同体に移行し、政治的対立に反対する傾向は、アメリカでも顕著だという。分裂した社会では、政治が二極化しやすく、重大な問題への解決策を生み出せなくなる。
 著者は社会に「適合する」ことを示唆する「公民教育」と学校の外の政治的世界に真っ向から取り組む「民主主義教育」を区別し、横断的な学びを模索する。
 イデオロギーが「左」または「右」に傾く学校でも、生徒たちは多くの問題への態度を決めきれず、そこに論争的な問題の議論の余地を見いだしていた。日本の多くの学校現場では、政治的中立性維持のため、教師は意見を伝えるべきでないとされるが、本書は、教師の意見表明が生徒の学びに及ぼす影響や効果を実証的に明らかにした。
 議論の評価方法については、説明責任を重視する教師がいる一方で、生徒の発言の真正性が第一だとして、統一の評価基準を示さない教師もいた。
 生徒全員が同性婚の合法化に反対というキリスト教の高校の教師は、卒業後の世俗的な環境(大学など)に向けて、生徒が自分で考える力を育てようとした。重要な問題を、他人任せにしてはならないからだ。
 学校が論争的な政治問題を教えることをためらうならば、民主主義の担い手が育たない。公共の課題に対する熟議が進まないことは言うまでもない。
    ◇
Diana E. Hess 高校教師を経て、米ウィスコンシン大教授。米国の公民教育・民主主義教育研究の第一人者。