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「仲直りの理」書評 加害者を許せば被害者も癒える

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2021年11月13日
仲直りの理 進化心理学から見た機能とメカニズム 著者:大坪 庸介 出版社:ちとせプレス ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784908736216
発売⽇: 2021/10/15
サイズ: 19cm/277p

「仲直りの理」 [著]大坪庸介

 先日ある人からひどい目に遭わされ、後で謝罪された。だが私はその謝罪を受け入れられない。関係は修復した方がよいのだろうが、赦(ゆる)す気になれない。そんな心境のとき書店でこの本を目にした。著者は心理学者で、謝罪と赦しを論じている。本を手に取り適当にページを開くと、太字で「またひどいことをしそうな相手は赦さない」と書いてあった。わかる。そういうことだ。私が感じているのはそういうことだ。
 私は相手がまた同じことをしそうな気がするから、赦す気になれない。それは感情の働きだ。ただし私は合理的に思考して、赦さないという判断をしてもよかったはずだ。容易に赦すと、相手は再度同じことをしてきそうなのだから。
 ここで興味深いのは、私が合理的な思考なしで、自動的な感情で「赦さない」と思えたことだ。人間はこうした、赦しについての様々な感情を、進化の過程で獲得してきた。その仕組みはよくできていて、自分にとって価値が高い相手ほど赦しやすい。動物でも、群れで互いを必要とするイヌやシャチ等(など)はケンカした相手を赦し、仲直りをする習性があるのだという。一方、祖先が群れをつくらなかったネコに仲直りの傾向はないのだという。
 それでも効果的な謝罪は簡単ではない。いくら口先で悔恨の意を示しても、相手が信じるとは限らない。そこで重要なのが謝罪にコストをかけることだ。分かりやすいのは被害の補償だが、工夫や手間暇もそれにあたる。「ここまでしてでも謝罪したい」とのシグナルが、相手に誠意として伝わり、赦しを導くからだ。
 被害者は、加害者を赦さねばならないわけではない。ただし赦しは自分の傷を癒やす。赦さずとも、赦そうとする態度をもつだけで、ストレスは軽減されるのだという。私はこの本を、いまの自分のために書かれたようだと思ったが、きっと多くの人が同様に思うのではないかと思う。
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おおつぼ・ようすけ 東京大准教授(社会心理学・進化心理学)。共著に『英語で学ぶ社会心理学』など。