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「まだ、法学を知らない君へ」書評 解決への道筋探る思考止めない

評者: 石飛徳樹 / 朝⽇新聞掲載:2022年09月03日
まだ、法学を知らない君へ 未来をひらく13講 著者:東京大学法学部「現代と法」委員会 出版社:有斐閣 ジャンル:法学・法制史

ISBN: 9784641126367
発売⽇: 2022/07/06
サイズ: 19cm/237p

「まだ、法学を知らない君へ」 [編]東京大学法学部「現代と法」委員会

 法学に対し、血も涙もないという反感を抱く人は結構多い。しかし感情は往々にして暴走する。国民の多数が感情的になった時、理性を担保するために法律が存在する。沸騰した感情に水を差すのだから嫌われるわけだが、それこそが感情で動いて失敗を繰り返してきた人類の知恵だ。憲法改正が政治日程に上ろうかという今、法学を知ることがとても重要になっている。
 本書は初心者向けに書かれているが、法学のイロハを教える基本書ではない。法律が想定していなかったであろう現代的な諸問題に関して、法学がどう対応しようとしているのかが分かりやすく解説されている。いわば実践の書である。
 SNSでの誹謗(ひぼう)中傷、変わりゆく性犯罪の認識、正規と非正規労働者の格差、巨大IT企業の市場支配等々。極めて複雑な13の問題を取り上げ、その現状を紹介し、解決への道筋を法学的思考で探っていく。
 例えば、同性婚問題は、2021年の札幌地裁判決から分け入っていく。民法及び戸籍法が同性同士の婚姻を認めていないのは、法の下の平等を定めた憲法14条1項に反するとした(控訴審が継続中)。これは一定の前進だろう。
 しかし、この講義はそこで法学的思考を止めない。「あえて婚姻という制度を(中略)用意する必要があるのかという問いも立つ」とさらに攻めていき、「純理論的には婚姻不要論もある」とまで踏み込む。
 確かに、性愛という究極に個人的な領域を、国家に指図される筋合いはない。異性でも同性でも、あるいは3人以上のパートナーシップでも、個人の自由ではないか。法律は、子の養育や財産の相続など、最低限のルールを決めてくれればそれでよい。婚姻制度があるから、別姓か同姓かといった様々な面倒が起こる。
 法学はここまで思考することが出来るのだ。本書を読み終わった時には、血も涙もないなどとは言えなくなっているだろう。
    ◇
東京大の学部1、2年生を対象に、白石忠志教授、宍戸常寿教授ら教員13人が行った講義の記録。