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金融史の視点から社会構造も炙り出す「三井大坂両替店」 田中大喜の新書速報

 越後屋として有名な三井高利(たかとし)が創業した三井大坂両替店(おおさかりょうがえだな)。萬代悠(まんだいゆう)『三井大坂両替店』(中公新書・1100円)は、三井文庫の膨大な史料を読み解き、江戸時代最大級の金貸しに成長した要因に迫る。

 幕府公金の貸し付けを行った大坂両替店は幕府から厚い債権保護を受けられたことに加え、日頃から丹念な顧客の信用情報調査を行ったことが成長の要因と説く。この調査では顧客の人柄を重視したため、これを詳細に調べ上げる大坂両替店は巨大な「防犯カメラ」のような存在だったとの指摘は興味深い。金融史の視点から近世大坂の社会構造をも炙(あぶ)り出す好著。
★萬代悠著、中公新書・1100円

 今や歴史学のなかで確固とした市民権を獲得したジェンダー史。姫岡とし子『ジェンダー史10講』(岩波新書・1056円)は、前提となった女性史とジェンダー史の史学史を振り返りつつ、家族・身体・福祉・戦争・植民地等を切り口にその意義と成果を紹介する。

 ジェンダー史の立脚点は、性差は本質的なものではなく、歴史的に作られたものという認識にある。こうした観点から、近代になって作られた性差の実態とそれが現代社会に及ぼす影響を明らかにする。ジェンダー史が刷新した歴史像は、多様性を尊重する社会を生きる我々に貴重な指針を示す。
★姫岡とし子著、岩波新書・1056円=朝日新聞2024年3月23日掲載