The Sweetest City, Tokyo

Tokyo甘味物語
Column
世界的建築家が手がけたお店で味わう東京スイーツ
Vol.4
世界的建築家が手がけたお店で
味わう東京スイーツ
世界的建築家が
手がけたお店で味わう
東京スイーツ
隈研吾・伊東豊雄・丹下健三&nendo
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21世紀の東京には、世界をまたにかけて活躍する日本人建築家が手がけた建築とオリジナルスイーツを共に楽しめるお店が次々と生まれています。新たな観光名所にもなっている「スイーツ×スポット」の中から3店を紹介します。
[文:塩見圭/写真:長島史枝]

隈研吾と日本料理の名店が出会った
「廚 菓子 くろぎ」

東京大学の本郷キャンパス内にある甘味処「廚(くりや) 菓子 くろぎ」は、新国立競技場を手がけた建築家の隈研吾さんが設計しました。本郷三丁目駅から徒歩5分の春日門を入ってすぐ。東大のシンボルで国指定重要文化財の赤門からも5分ほどで着くため、学生以外でも散策がてら気軽に入りやすい場所です。

店がオープンしたのは、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された翌年の2014年。芝大門にある日本料理の名店「くろぎ」の店主・黒木純さんと、東大の教授で日本の素材を生かすことで知られる隈さんが、「和の文化をより発展させたい」という考えのもと、「和の建築」で「和のスイーツ」を出すことになりました。

懐徳館庭園
借景の緑は東大の敷地内にある旧加賀藩主・前田家の日本庭園「懐徳館庭園」。2015年に国の名勝指定を受け、年に一度公開される貴重な場所。写真は廚 菓子 くろぎ提供

細長い杉板をうろこ状に張り巡らせた外観は、隈建築の真骨頂。よく見ると板の幅の長さが一枚ずつ異なり、隙間もランダムにあいているため、奇抜なようでいて柔らかな表情を生んでいます。内装も隈さんのデザインで、お客さんが職人の手仕事を見られるようにと調理台の高さを低めに設定。「見られること」を意識した店はほどよい緊張感があり、隅々まで明るく感じます。テラス席は頭上まで木材に覆われ、周囲の緑となじみ木陰にいるようです。

「蕨もち お飲み物セット」
「蕨もち お飲み物セット」(2750円)は、季節の香の物、徳島産の和三盆で作られた干菓子と猿田彦珈琲のコーヒー付き

海外からも建築好きやスイーツ好きが訪れるこの店で、1日30食以上出るのが「蕨(わらび)もち」(飲み物セット2750円)。注文を受けると、職人が蕨粉100%の本蕨粉を水と少量の黒蜜で練り上げるところから始めます。希少な本蕨粉は九州産で、灰褐色が特徴。杓子で手早くかき混ぜていくと、あっという間に真っ黒でつややかに伸びる蕨もちが。練りたてを氷水に入れた姿は見るからにみずみずしく、野趣ある香り。箸で持ち上げるのが難しいほど「とろーん」としつつも、口に入れるともっちりした弾力に驚きます。そのままで味わったあとは、別添えの深煎りきな粉や、青大豆きな粉と抹茶をブレンドした「うぐいすきな粉」をふんだんにまぶしたり、濃厚な黒蜜をかけたり。蕨もちには桜の塩漬けがあしらわれ、黒、ピンク、黄土、黄緑と色彩の美しさも心に残ります。セットの飲み物は、恵比寿に本店を構える猿田彦珈琲が和菓子に合わせて考えたオリジナルブレンド。猿田彦珈琲公認のバリスタが店内で淹れてくれるコーヒーは、すっきりしたお茶のような味わいです。

本蕨粉を使った「蕨(わらび)もち」
本蕨粉を使った「蕨もち」は、オーダーが入ってから職人が練り始めます。弾力と色の濃さ、香りが特徴で賞味期限はわずか30分だとか

日本料理店が出すスイーツとして追究しているのは、「五味のバランスと食感」とのこと。例えば、最近のかき氷ブームで通年人気の「かき氷 黒みつきなこ」(1650円)は、氷が見えないほどたっぷりまとったエスプーマ状の黒蜜クリームに、隠し味で醤油を加えて「甘じょっぱさ」を出しているそう。かりっとした食感のクルミも、最後まで飽きさせない工夫です。ちょっとしたアクセントが、日本料理らしい絶妙な味わい深さを感じさせてくれます。

廚 菓子 くろぎ

[所在地]東京都文京区本郷7-3-1
東京大学本郷キャンパス春日門側
ダイワユビキタス学術研究館1階
[アクセス]東京メトロ・都営地下鉄「本郷三丁目」駅
[TEL]03-5802-5577
[営業時間/定休日]
10:00~19:00(L.O.18:00)
11月~2月は水曜休み
そのほか大学の試験日など臨時休業あり
[公式サイト]http://www.wagashi-kurogi.co.jp/

廚(くりや)菓子 くろぎ
伊東豊雄と舞台芸術が出会った
「アンリ・ファーブル」

劇場は観劇するだけの場所じゃないと教えてくれるのが、杉並区の公共施設「座・高円寺」。高円寺駅北口から歩いて5分、商業地区と住宅地の混在したエリアにサーカス小屋のような形の劇場があります。外から内部が見えないため、演劇ファン以外の人が初めて入るにはちょっと躊躇しますが、思い切って入ると、正面奥に丸い光がドット模様のようにちりばめられた螺旋階段が。好奇心に誘われて2階へ進むと、そこが「カフェ&レストラン アンリ・ファーブル」です。

アンリ・ファーブル
地上3階、地下3階をつなぐ吹き抜けの階段には円形の照明がドット模様のようにちりばめられていて、ひときわ目を引きます

設計したのは、建築家の伊東豊雄さん。2009年に初代館長の劇作家・斎藤憐氏と芸術監督の演出家・佐藤信氏が中心になり、地域の「広場」を目指してオープンしました。中でもカフェは、「伊東豊雄さんの建築を間近で感じられる」とスタッフに応募する人がいるほど、建築好きにとって知る人ぞ知る場所。ベンガラの土壁にいくつもある円形の窓から自然光が入り、曲線を描いた天井は洞窟のような安心感があります。「差し込む光の強さが変わっていく夕方が一番好きなんです」と語るのは、カフェ担当の大谷尚義さん。壁には円形の照明もはめ込まれ、夜は落ち着いた照度のスポットライトでドラマチックに。「座・高円寺」企画・広報の森直子さんは「奇をてらわず、機能とのバランスが練られていて、建物としてすごく知的な感じがします」と話してくれました。

アンリ・ファーブル
絵本は常時250冊ほどが並びます。毎週土曜日の午前中に、読み聞かせのイベント「絵本の旅@カフェ」を開催

子どもにもたくさん来てほしいことから、壁には絵本がずらり。2千冊以上の絵本から季節に合わせて常時250冊を並べ替えています。毎週土曜日には、テーマに沿って名作を紹介する読み聞かせイベント「絵本の旅@カフェ」も。おやつを食べながら、「本読み案内人」が子どもにマンツーマンで好きな絵本を読んでくれます。おやつは、イベントごとに変わるスペシャルメニュー。2020年最初のイベント「ゆきはまほうだ!」では、雪の結晶の形のクッキーを載せたマシュマロ入りブラウニーが登場しました。子どもたちは、目にも舌にも記憶に残る時間を過ごしたに違いありません。

スイーツプレート
ケーキを2種選べる「スイーツプレート」は400円。さらに飲み物を一緒にオーダーすると350円になりお得です

カフェの定番人気は、スイーツ2種を盛り付ける「スイーツプレート」(400円)。スイーツは自家製で、タルトとグラスデザートは季節ごとに変わります。グラスデザートは「パンナコッタとオレンジゼリー」「ジンジャーエールとフルーツゼリー」「キビ糖のプリン」「クリームチーズのムース」など、子どもも大人も楽しめる味。そのほか、ガトーショコラやベイクドチーズケーキ、バナナケーキ、シフォンケーキからも選べるので、みんなで頼んでシェアする人が多いそう。公演のない日でも、稽古終わりの演者とお客さんが演劇を語り合ったり、親子が散歩がてらケーキを食べに来たり、建築学部の学生たちが集まったり。観劇を目的としない人たちも、自分だけの穴場スポットとして、のんびりくつろいでいます。

カフェ&レストラン 
アンリ・ファーブル

[所在地]東京都杉並区高円寺北2-1-2 座・高円寺2階
[アクセス]JR「高円寺」駅北口
[TEL]03-3223-7330
[営業時間/定休日]
11:30~19:00/火曜休み
(火曜は出張店舗「ツバメおこわの日@アンリ」)
[公式Twitter]
https://twitter.com/cafe_fabre

アンリ・ファーブル
丹下健三と人気のデザインオフィス
nendoが出会った
「CONNEL COFFEE」

東京が誇る建築のひとつに、いけばな草月流の拠点「草月会館」があります。青山一丁目駅から青山通り沿いを赤坂方面へ歩いて7分。その全面ガラス張りのビルの2階にあるカフェ「CONNEL COFFEE(コーネルコーヒー)」では、計算された建築とデザインの妙をスイーツと一緒に味わうことができます。

CONNEL COFFEE
隣接する高橋是清翁記念公園は、是清の邸宅跡地。冬でも、日本庭園を思わせる山茶花やイロハモミジ、ケヤキが居心地のいい借景を生んでいます

草月会館が竣工したのは1977年。のちに都庁を手掛けた建築家の丹下健三が、草月流の創始者・勅使河原蒼風(てしがはら・そうふう)の依頼で設計しました。エントランスはグラフィックデザイナーの亀倉雄策がコーディネートし、彫刻家のイサム・ノグチが石庭を組むというぜいたくさ。その一角にあったクラシックなレストラン「薔薇」がカフェに改装されたのは2015年。ビルの6階にオフィスを構え、今や国内外で引っ張りだこのデザインオフィスnendo(ネンド)が、カフェと談話室をプロデュースしました。

CONNEL COFFEE
談話室には1977年の竣工当時から使われてきたエーロ・サーリネンの「チューリップ・チェア」と「チューリップ・テーブル」。nendoによってマットブラック塗装に

店内に入ると、ガラス窓の向こうは一面の緑。さらに、外装のガラスや天井のミラーガラスの効用で、隣の高橋是清翁記念公園と赤坂御用地の緑が室内のあちこちに映ります。時々、視界の端に動くものが。青山通りを走る車や行きかう人たちが、天井にも一部映りこんでいるのです。この洗練された仕掛けは、竣工当時から変わらないとのこと。ガラスと鏡というシンプルな素材を生かした工夫があるから、いつまでも新しく感じるのかもしれません。

nendoが手を加えたのは、床と家具です。中央に置いたカウンターテーブルは黒い人造大理石を使い、さらに緑のリフレクションを生み出しました。テーブルの天板には「床緑」のように緑が映り、葉の揺れる様子も分かるほど。室内に外の景色が溶け込み、テラス席にいるような感覚に陥ります。カフェ責任者でシェフの八木英治さんによると、Wi-Fiや電源を完備しているものの、パソコンを持ってきても緑を眺めてひと息つく人が多いそうです。

コーネルシフォンケーキとドリップコーヒー
コーネルシフォンケーキ(520円)とnendoオリジナルデザインのマグカップに入ったドリップコーヒー(500円)

メニューは、毎日コーヒーを買いに訪れるnendo代表の佐藤オオキさんも一緒に考えます。空間に合わせて「上質さ」を意識したスイーツは、すべてカフェ内での自家製。人気のエスプレッソのシフォンケーキ(520円)は、ローマの老舗ロースターで焙煎した豆を使う凝りよう。フランス産カカオをマーブル状に練り込み、優しい甘さがコーヒーに合います。そのほか、とちおとめと生クリーム、イチゴのソースを組み合わせたショートケーキや、ゴルゴンゾーラチーズのケーキなど、日によってケーキメニューが変わるのも通う楽しみのひとつ。ちょっとした驚きは、手元にも。真っ白のコーヒーカップは一見どこにでもあるマグカップですが、よく見ると持ち手部分だけ手びねりで作られ、一つ一つ形が異なるnendoオリジナル。シンプルでミニマルな中に「気づき」があり、この空間にぴったりです。

CONNEL COFFEE
(コーネルコーヒー)

[所在地]東京都港区赤坂7-2-21 草月会館2階
[アクセス]東京メトロ・都営地下鉄「青山一丁目」駅
[TEL]03-6434-0192
[営業時間/定休日]
9:00~18:00(土曜は11:00~17:00)
日曜・祝日休み
[公式サイト]http://connelcoffee.jp/

CONNEL COFFEE
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江戸時代から続く伝統の“和菓子”文化や明治以降に進化を遂げた“洋菓子”文化が根付いたThe Sweetest City 「東京」の魅力を発信するプロジェクトです。朝日新聞社(総合プロデュース室/メディアビジネス局)が「東京の魅力発信プロジェクト(※)」の一環として、様々な企画を展開しています。
※東京の魅力発信プロジェクトとは、東京ブランドアイコン「Tokyo Tokyo Old meets New」を効果的に活用しながら、東京都および東京観光財団が民間事業者と連携し、東京の魅力などを発信する事業です。

【「Tokyo甘味物語」プロジェクト主催】
朝日新聞社 総合プロデュース室(好書好日編集部)
/メディアビジネス局
※本プロジェクトは「東京の魅力発信プロジェクト」に採択されています。
【問合せ先】
book-support@asahi.com