翻訳者が装幀に凝りだすとどうなるか 『ヒッピーのはじまり』(阿部大樹訳)
記事:作品社
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5月に『ヒッピーのはじまり』という本の翻訳を出しました。
1960年代、カリフォルニア州サンフランシスコが舞台です。
どうして、そんな昔の本を?
――たしかに、一昔前の話ですが、実は今に続くBLMも、環境保護運動も、フェミニズムも、60年代に花開いたヒッピー・カルチャーなしにはあり得なかったムーブメントです。
そういえば、バイデン大統領もヒッピー世代の一員ですね。
原著者は東海岸のアカデミアに絶望した文化人類学者。大学で教えていたこともありましたが、当時の保守的な学界で女性が出世するのは難しいことでした。弾き出されるように流れ着いたサンフランシスコ市ヘイト・アシュベリー地区で、大学にもマス・メディアにも属さずに世界史を塗り替えようとした『最初のヒッピーたち』を彼女は目撃し、そこに巻き込まれていく――という話。
さて、その後に何が起きるかは本を読んでもらうとして。(面白い本ですよ)
ところで本を出すとなると、装幀を考えないといけません。どんなカバーにするか、ということですね。一般的には、翻訳者というのはあまりデザインに興味がないみたいで、出版社に任せてしまう事が多いようです。
ただカリフォルニアのヒッピーといったら強烈なビジュアルがあってこそだし、原書のカバーもかっこいいので、負けずに日本語版だってめちゃくちゃ凝った装幀にしてやろうと思ったのです。要するに趣味に走ったわけです。
原書の装幀はOp-Artと当時呼ばれたビビッドな縞模様と、それにコントラストをつけたモダン書体のフォント。好き。特にOp-Artはこの時代に最先端のスタイルでした。
ただデジタル画像が当たり前になった現代では、強い色味はいくらでも作れてしまうので、当時あったほどのインパクトを与えられないかも。
60年代当時の技法でありながら、なおかつ今みても目新しいもの……。
そんなのあるわけないか……
と思ってたら、ありました。
リキッドライト。
知人で変人の大場雄一郎さんがやってくれることに。
インキで着色した油をガラス容器にいれて、そこに強い光を透過させて幕に拡大投影します。60年代のアメリカで一世風靡した照明技法。好き。
伝統的な照明法だけど、見たことある人いないよね、むしろ最先端じゃん、ということで採用。
そんな経緯で、スタジオを貸し切りしてリキッドを炊きました3日間。
本来は映画撮影とかロック・コンサートでやる照明法なので本が一万部売れても赤字です。
でもやる。趣味に走ってるので。
大場さん、弟子の因幡ちゃん、カメラRokka Ando、アシスタントの関口大さんの4人体制。さらに担当編集の倉畑氏がデザイナーの山田和寛さんとスタジオをリモートで繋いでくれました。たのしい。
撮影現場は企業秘密なので画像ありませんが、勢いに任せて撮影メイキングを……
長丁場の撮影が終わってからCM動画も作ってみました。
翻訳書のCMをYouTubeに流して意味があるのか? 知りません。
この一分間のために腕利きのスタジオ・ミュージシャンに集まってもらって録音したんですよ。
そういうことなので、もし良かったら本を手に取ってみてください。
なにせ凝ってるので。