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虫好きの虫好きによる、虫好きのための超絶技巧作品集  子どもも大人も楽しめる美術的昆虫図鑑

記事:芸術新聞社

小松 孝英 《帰化混成蝶舞図》アクリル、純金箔、キャンバス
小松 孝英 《帰化混成蝶舞図》アクリル、純金箔、キャンバス

小島 久典 《Parantica sitmimos Nov.1455 A.D.》檜
小島 久典 《Parantica sitmimos Nov.1455 A.D.》檜

 夏真っ盛りということで、書店には夏休みの子ども向けの本が並んでいます。その中には、虫に関する書籍もチラホラ…。『虫めづる美術家たち』掲載作家たちも子どもの頃から大の虫好き。本文中にもありますが、「虫が好き過ぎて虫の作品を作り始めた」作家ばかりなのです。本物に見紛うほどのカブトムシにクモ、そして蛾など、それらが人の手によって作られたものとは思えないほどのリアリズム。超絶技巧ということば通りの、神業としか思えない作りに、書店員さんたちも「虫きらいなので」と目を背けてしまったほど。いやいや、虫ぎらいだからということではなく、美術作品としてその技術をぜひ見てほしい、作家の思いを知ってほしいのです。

 本書が他の作品集と大きく異なるのは、昆虫学者の丸山宗利氏が各作家の作品に解説をしているところです。丸山氏は「昆虫の面白さと素晴らしさを多くの人に伝え、昆虫好きを増やしたい」と自身のSNSで語るほど、虫愛の強さはピカイチです。その丸山氏が、特別寄稿で、「本書に登場する作家に共通する点として、昆虫に対する純粋かつ大きな愛情をもっていることも伝わってくる」と書いています。丸山氏はここ最近の昆虫ブームに対し、裾野の広がりを感じると言っています。まさに本書は、昆虫の世界の裾野の広がり=美術の世界の裾野の広がりとなっているように思えます。

宇田川 誉仁 《殿様飛蝗-Migratory Locust-》ミクストメディア ©craft factory SHOVEL HEAD 2015 写真= figuephoto / KON
宇田川 誉仁 《殿様飛蝗-Migratory Locust-》ミクストメディア ©craft factory SHOVEL HEAD 2015 写真= figuephoto / KON

描かれ続けてきた昆虫たち

 本書のコラムで安村敏信氏(北斎館館長)は、「草虫図」は中国で成立した画題だと書いています。時代を超えて、「草虫図」は様々な画家によって描かれ続けてきましたが、それぞれが立身出世、子孫繁栄などの吉祥を表しているとのこと。

 日本での最古の虫の絵画作品は、和泉市久保惣記念館美術館所蔵の『伊勢物語』第一段に鈴虫、松虫が描き分けられているそうで、それは主題と無関係で、季節感や田舎のイメージを演出するために描き込まれたようだ、と安村氏は記しています。

 安村氏のコラムを一読いただき、今月からサントリー美術館で開催の「虫めづる日本の人々」をご覧いただくことで、さらに安村氏の言葉がリアルに私たちに響いてきそうです。

 展覧会では、私たちに親しみのある物語や和歌をはじめ、酒器、染物品などに描かれた蝶、鈴虫、蜘蛛など造形に見る虫の作品が並びます。昆虫図鑑ともいうべき江戸時代に描かれた喜多川歌麿『画本虫撰』は、昆虫ファンが見ても心揺さぶられるものです。

 鈴虫、松虫などの鳴く虫や蛍は人間の心情を表すといった重要な役割を果たしていますが、私たち日本人には身近なものであったことが伝わってきます。

 長きにわたり育まれてきた日本の虫めづる文化は、大衆化が進み、江戸時代にはピークを迎えます。今回のサントリー美術館での展示では、江戸時代に焦点を当て、様々な「虫めづる日本の人々」の様相に触れることができます。

サントリー美術館「虫めづる日本の人々」の詳細はこちらから。
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2023_3/

外山 諒 《Gathering》麻紙、岩絵具、水干絵具、墨、金泥
外山 諒 《Gathering》麻紙、岩絵具、水干絵具、墨、金泥

「虫が好きだから!」が合言葉

 今回の『虫めづる美術家たち』の出版を記念しての展覧会も開催します。

 7月28日(金)〜8月12日(土)まで東京銀座のササイファインアーツで開催される「INSECTS」は今年で4回目の開催となりますが、前述の安村氏のコラム内にもある「はまると抜けられない世界。これが虫を描く絵師に取り憑くのだ。」ということば通り、小さな生物の存在と造形に魅せられて、作品を作る観察力は、もはや虫眼としか言いようがありません。

 本書掲載作家を含む虫好き作家たち20名の彫刻、工芸、平面など様々なジャンルの虫好き作家たち20名が出品する出版記念展、ぜひ足をお運びいただきたいと思います。

 さらに、8月6日(土)14時からは、誠品生活日本橋にて、自在置物作家の満田晴穂氏、彫刻家の佐藤正和重孝氏、標本作家の福井敬貴氏3名のトークイベントを開催します。書籍の中でも鼎談が掲載されている3名ですが、リアルトークイベントでは、それぞれの作品制作への思い、さらにそれ以上にある虫への思いを熱く語っていただきます。

 本書のタイトル「虫めづる」は、平安時代の短編集『堤中納言物語』に収録された「虫めづる姫君」に由来します。主人公の美しい姫が、奇妙な姿の虫たちを偏愛し、世間から変わり者扱いされる物語です。この風変わりと描写される姫のように、周りに流されず好きなものを探求し続ける「虫めづる美術家たち」に敬意を表するものですが、本書を通して、さらに展覧会、トークイベントで、作家たちの熱意を体感し、作品と出会うきっかけとなりましたら幸いです。

『虫めづる美術家たち』出版記念展
「INSECTS」(ササイファインアーツ)
https://sasaifinearts.com

『虫めづる美術家たち』出版記念トークイベント情報
https://seihin0806mushi.peatix.com

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