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この夏は江戸時代の季節を感じる暮らしを。竺仙のゆかた柄で江戸の粋を知る

記事:芸術新聞社

大きな渦を程良く配置し綺麗な水紋を作っている「水紋」は明治のデザイン。『老舗呉服屋店 竺仙のゆかた柄100選レターブック』(芸術新聞社)
大きな渦を程良く配置し綺麗な水紋を作っている「水紋」は明治のデザイン。『老舗呉服屋店 竺仙のゆかた柄100選レターブック』(芸術新聞社)

 今年も厳しい暑さの夏がやってきました。毎日を涼やかに快適に過ごしたいものですが、そのためのヒントとなる暮らしの工夫が、江戸時代の衣食住にあることをご存知でしょうか。江戸時代、人々はゆかたを身にまとい、団扇や扇子で暑い中でも風を感じました。そうめんや西瓜を食べ、からだの中から体温を下げる。冷えた甘酒を飲むことで、夏バテ予防に備えていたといいます。

 さて、今回の主役は江戸の庶民にも愛された「ゆかた」。

 ゆかたの語源は湯帷子(ゆかたびら)といわれています。平安時代に皇族や貴族といった身分の高い人が身体を清めるために蒸し風呂に入る際、蒸気でやけどしないように、また、素肌を隠すために縫ったのが麻の湯帷子でした。

 竺仙のゆかたは、型紙を使用した藍染のゆかた。紺と白のさっぱりとした味わいが江戸っ子の好みに合い、人気を博しました。その証拠に、江戸後期から明治期にかけて、江戸土産として珍重されていたことが明治34年に発行された『東京名物志』に記されています。

 さらに、雑誌の連載を経て昭和13年に単行本として発売された川端康成と中里恒子の合作『乙女の港』の中で、主人公が母親に「竺仙の反物で浴衣を縫って」とねだる一節があり、竺仙のゆかたが当時の女性の憧れだったことがわかります。

職人が支えつづけた竺仙のゆかた柄

 江戸時代から続く竺仙のゆかた柄は、当時は職人のデザインに依るものです。長年竺仙のゆかた柄を見続け、ご自身でも『原由美子の大人のゆかたーきものはじめ』(CCCメディアハウス)の著者でもあるスタイリストの原由美子さんは竺仙のゆかた柄について「一つひとつのデザインを見ていると、その完成度の高さもですが、当時の職人の粋なのにユーモアもあるセンスにハッとするばかりです」。

 共立女子大学教授の長崎巌さんは、服飾研究者の立場から以下のコメントを寄せていただきました。

「「竺仙」のゆかたの特徴は、町人文化の爛熟期にあたる天保年間に江戸の地で創業したというその歴史を反映した伝統的で「いき」な模様が、現代まで継承された洗練された技法で生み出されているという点です」。

 現代まで息づいている竺仙のゆかたは、まさに江戸の粋を形にしたものだといえます。

竺仙ゆかた柄のレターブックをたのしむ

【向日葵/sunflowers】表面 
【向日葵/sunflowers】表面 

裏面
裏面

 今回、ゆかた柄レターブックを刊行するにあたり、竺仙で永年大切に受け継がれてきた定番の江戸小紋の柄や、日本古来の文様をモチーフにしつつ、オリジナルも含めて毎年発表している新作の中から特に人気の高かったものを中心に100点を選んでいただきました。

 前述した原さんのコメントにもあるように、江戸時代の職人の腕とセンス、そして粋は絵柄だけでなく、色遣いにも感じられます。小川さん曰く、「江戸の粋は紺と茶で決まる」という言葉通り、レターブックの中にも、代表的な紺と白の絶妙なデザイン、渋い茶色の絵柄が収録されています。

 レターブックは書籍とは異なり、一枚一枚を剥がして便箋として使用することが可能です。おもて面には竺仙のゆかた柄のデザインを、うら面は手紙を便箋としても使用できるように無地あるいは文様を半調にしたデザインを施しています。便箋だけでなく、ポチ袋を作ってみたり、剥がしてそのまま小さな額に入れて飾ったりと活用はさまざまに考えられます。

「この本は繰り返しページをめくりたくなる楽しさがあります。竺仙のゆかた柄は長年見ていたつもりなのですが、初めて見る絵柄もあり、また解説を読み、なるほど!という発見もありました」と原さんがお話ししてくれました。

 レターブックは、その名の通り手紙を書くという目的がありますが、使う人の暮らしの中で、活用方法を発見できる、驚きがある、そんなたのしみが一冊に詰まっています。

(文・芸術新聞社営業部)

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