働くということは生きることの大切な一部 しごとと自分を見つめ直す5冊
記事:じんぶん堂企画室
記事:じんぶん堂企画室
しごとのスタイルを自由に決められる、と言われても、とりあえずお手本を見てみたいもの。そこで、筑摩書房がおすすめするのが、西村佳哲『自分の仕事をつくる』。
働き方研究家の西村さんが、名護市庁舎で有名な象設計集団や、パン屋さん「ルヴァン」のオーナー・甲田幹夫さんなど、いい仕事をしている、と思う人たちに会いに行くインタビュー集です。
数々のインタビューから見えてくるのは、みんな、自分で自分の仕事をつくっている、ということ。自分で道を切り開くとは実際にはどういうことなのか、リアルなヒントが詰まっています。
どんな人にも読んでほしいですが、とりわけ、これから社会に出る人、働き始めたばかりだけどなんだかもやもやしている、といった若い人たちに読んでいただきたいです。さまざまなヒントを与えてくれるでしょう。
働くということは生きることの大切な一部分なのだ、と実感できる一冊です。
「じゃ、いっそ、どこか遠いところでスタートしてみるか!」――そんなことを思った方に読んでいただきたいのが、平凡社おすすめの、鈴木みき『中年女子、ひとりで移住してみました : 仕事・家・暮らし 無理しすぎない田舎暮らしのコツ』。
『悩んだときには山に行け!』などの登山コミックで人気の鈴木さんが、38歳で山梨県に移住した体験を通して「中年独身ならではの田舎暮らし体験」を描くコミックエッセイで、家やしごとの探しかたについての具体的アドバイスが満載です。
今の居場所にちょっと疑問を感じている人、「自分を変えたい」と思っている人に、読んでみていただきたいです。
鈴木さんの軽やかな生き方が、もっと自分の気持ちに素直になっていいんだ、と、背中を押してくれることでしょう。
ここまでおすすめした2冊は実践的。
朝日新聞社からは、詩的な世界でしごとについて考える一冊をおすすめしたいと思います。エレーヌ・グリモー『幸せのレッスン』です。
著者のグリモーは、国際的に活躍するフランス人女性ピアニスト。オオカミの保護活動でも知られます。
本作は、音楽活動に「枯渇」を感じたグリモーが、まさに「しごとと自分を見つめ直す」旅。ヨーロッパの美しい風景の中でさまざまな人と出会い、語る「物語」です。
アッシジの女子修道院で働く女性、元文学教授、小さな村で出会ったからくり人形収集家――彼らと語り合う内容は「愛とは?」「音楽を生きるとは?」――本書は、哲学書といってもよいかもしれません。
芸術家のしごと観など常人には何のヒントにもならない、と思いきや、そうではありません。グリモーは、環境や組織の諸々といった外的要因に悩むのではなく、自分自身と徹底的に向き合い、その結果たどりつく答えは、本質的で普遍的なものだからです。
「幸せに生きることは、自分自身の力で学ばなければならない。・・・・・・それは、誰もなまけることができない気が遠くなるような練習曲(エチュード)だ」(本書より)
しごとに夢中に生きた人の話は、しごとへの情熱や愛など、わたしたちが忙しさの中でつい忘れがちなことの大切さを伝えてくれます。
白水社がおすすめするのは、児山紀芳『ジャズのことばかり考えてきた』。
(ピアニストの次はジャズ、と、今回のじんぶん堂企画室は、気がつけば、音楽に気持ちが向かっていました。)
今年2月に逝去されたジャズ評論家・児山さんは、ジョン・コルトレーンが1966年に来日した際の記者会見で、かの有名な「聖者になりたい」というコメントを引き出した人です。ジャズ雑誌「スイングジャーナル」編集長として同誌の黄金時代を築き上げた児山さんのしごとは、「ジャーナリズム」と「ヒストリカル・バリュー」を大切にしていたように思います。
この本を読むと、思わずジャズを聴きたくてしかたなくなるのは、児山さんがしごとを、ジャズを、好きで好きでたまらなかったから。人になにかを伝えるのに、その気持ちに勝るものはないことを、あらためて伝えてくれる本です。
であるならば、本を作るしごとのひとたちが本を好きで好きでたまらない気持ちも、負けません。きっと、何かを伝えるはず。
最後に、晶文社がおすすめするのが、島田潤一郎『あしたから出版社』。島田さんが、吉祥寺に夏葉社というひとり出版社をつくり、育てていく過程が書かれた本です。
夏葉社の本は、手にとること自体に幸せを感じるようなじつに素敵な装丁で、一冊一冊こだわりぬいて作られています。本の企画から、編集、営業、経理まで全部ひとりでやる島田さん。自分の生きるリズムに合わせて働き、本当に必要とされるものをこつこつと作って、売って、暮らしている島田さんの生きかたは、しごととは何か、を考えさせてくれます。
出版関係に興味がある人だけでなく、しごとで行き詰まっている人、組織になじめず生きづらさを感じたりしている人にも、きっと、島田さんの言葉はささることでしょう。