悪魔、巨人、仮面、魔法の馬、そしてなまはげ 『世界一おもしろいお祭りの本』
記事:創元社
記事:創元社
少年が大人になることを祝う、仮面のお祭り。
カースト制度の底辺に位置づけられた人々が一夜だけ神官になり、神々の舞を踊るお祭り。
乗り手に合わせて自由に大きさを変える、魔法の馬のお祭り。
原罪を清めるため、悪魔が赤ちゃんをまたいだ後にバラの花びらをまくお祭り。
世界には私たちの知らないお祭りがたくさんあります。
今回ご紹介する『世界一おもしろいお祭りの本』は、そうした世界のさまざまなお祭りをカラフルな図版とともに紹介したイラストブックです。
本書の監訳は、世界各地の民俗に詳しい国立民族学博物館の八木百合子氏。
巻末には、大陸別の世界お祭り地図も収録してあるので、学校などでの調べ学習にもオススメできる一冊となっています。
今回はその中から一部を紹介します。
最初に紹介するのは、エル・コラチョというスペインのお祭りです(イラスト上左)。
これは通称「赤ちゃんまたぎ祭り」とも呼ばれ、フードと仮面をかぶったエル・コラチョという悪魔が、生後12カ月未満の赤ちゃんの上を飛び越え、原罪を清めるという奇妙なお祭りです。
エル・コラチョが去った後は、赤ちゃんはバラの花びらをまかれ、両親の元に戻されます。
このお祭りは1620年からありますが、実際はもっと古く、キリスト教伝来以前の子孫繁栄を願う異教の風習が起源のようです。
ザンビアのルヴァレの人びとは約5年に1度、少年が大人になるための儀礼をおこないます。
この儀礼はムカンダと呼ばれ、少年たちは人の近づかない森のなかで1~3カ月間のキャンプ生活を送ります。
ムカンダが完了すると、マキシと呼ばれる仮面の踊り手たちが登場する卒業の儀式がおこなわれます。
その踊りは朝まで続き、夜明けとともに、ムカンダがおこなわれた森のキャンプに火が放たれます。
儀礼の内容が外に知られないようにするためです。
ベルギーには10年に1度、巨大な木馬が町を行進するお祭りがあります。
この巨大な木馬は、中世の武勲詩・叙事詩に出てくるバヤールという魔法の馬の伝説がもとになっています。
馬の背にはヘームスキンデレンと呼ばれる4人の兄弟が甲冑(かっちゅう)をつけてまたがるのですが、この4人になるには本物の兄弟でなければならず、間に姉妹がいなく、かつ年齢は7歳から21歳まで、という厳しい条件があります。
もちろん日本のお祭りも収録されています。
ここにイラストを挙げているのは、ご存じ秋田のなまはげですが、その他にも沖縄県宮古島のパーントゥや、鹿児島県悪石島のボゼなど、ユネスコ無形文化遺産に登録されたお祭りを知ることができます。
本書では、世界各地のお祭りを紹介するだけでなく、それぞれの個性的なお祭りの比較もしています。
巨人、悪魔の仮面、動物の皮革、かがり火、などなど。
お祭りの風習は場所によってずいぶん異なりますが、その中で演じられる要素には似たようなモチーフが見つかります。
異なる神々のなかにある人間の営みの共通性、あるいは共通のモチーフからみえる世界の文化の多様性から、子どもたちは様々なことを学ぶことができるはずです。