縄文とビジネスというミスマッチを楽しむ『縄文力で生き残れ』
記事:創元社
記事:創元社
というのはすこし誇張はしているけど決して的外れな話では無い。海水から塩を作るように「ビジネス」を煮詰めに煮詰め、ていねいに不純物を取り除き精製していけば、ナベの底に残るのは「交換」。そう、ビジネスの本質と原点は「交換」なのだ。
お金のない(お金という概念のない)時代から人はさまざまなことやモノを交換していた。ビジネスのはじまりが縄文時代からと言ったのは、そのモノの交換、交易の証拠がはっきりとわかってくるのが縄文時代からだからだ。
交易の証拠がわかりやすいモノの代表はもちろん「石」。あらゆる「使える石」が交易の対象となった。石斧にしやすい石、割ると鋭利な切っ先の作りやすい石、とにかく綺麗でいい感じの石。交易として代表的なものの一つが黒曜石だ。ガラス質でヤジリやナイフに加工しやすい「使える」石。この石はその産地の地域を越えてかなりの広範囲に広まっていることがわかっている。現在の技術ではその出土地を同定することができ、資源の動きから当時の人の動きや交易を推測することができる。
交換の痕跡は石だけではない、たとえば「塩」。遺跡の中には塩ばかり作っている遺跡もある。もちろん一つの集落で消費するようなモノでは無く、この貴重な調味料(栄養素)は周辺の集落や内陸の塩の手に入りにくい集落にも運ばれただろう。
ちなみに、冒頭でビジネスを原点にまで煮詰める喩えに使ったのは縄文時代の製塩をモチーフにしてみている。
縄文時代はお金も、会社も、有給休暇も各種社会保険もタイムカードもない時代だ。それでも人の営みの中にこそビジネスの本質があるのではないかと僕は考えている。
縄文時代とビジネスが根本的な部分でつながっているといっても、現代のビジネスシーンと縄文を比べてみるとどうにも相性が悪い。もちろんそんなことはわかっている。『縄文力で生き残れ』という本のコンセプトにはそのミスマッチを楽しもうというものがある。
実はそこにこそ重要なポイントがあると考えている。ミスマッチを馬鹿にしてはいけない。ミスマッチとは対比だ。その距離感と言い換えてもいい。まったく違うもの、相性の悪そうなモノ同士を合わせることによってお互いの特徴は強烈に引き立たせることができる。ミスマッチによりそのモノとモノは相対化され、新しい視点と新しい価値を手に入れることができるはずだ。そう、ミスマッチなモノとモノはお互いのよき批評家となりうる存在なのだ。
この本はふざけた本だ。「相談する相手が上司ではなく森」、「新人研修の終盤に抜歯」、「午前のことを前期と呼び、午後のことを後期と呼ぶ」、書いている自分ですらバカバカしい…とため息がでる。全体を通したイラストも気が抜けている。ちょっとしたパロディ漫画やブックインパロディビジネス本まである。しかし、読み手によって、ビジネスを、縄文を批評的に見ることができる本だ。少なくとも読み終わった後には少しだけ縄文に興味を持つことができる。もしかしたらあなたのビジネスにもすこしの何かがプラスされるかもしれない。
最後にビジネス本の古典である『7つの習慣』に敬意を表してこう言わせていただきたい。縄文とビジネスはこの本によってWIN-WINの関係になることができるのだ。
この本は縄文をテーマにした日本で唯一のカルチャーフリーペーパー、縄文ZINEからうまれた本だ。こちらもぜひ読んでほしい。「ビジネス+縄文」が『縄文力で生き残れ』だとしたら、この雑誌ではあらゆる現代のポップカルチャーと「縄文」がミックスされている。現在は合本として1号から4号までをまとめたものが書店で読めるようになっている。読めばきっと縄文が好きになり、縄文人と友達になれるはずだ!