センス・オブ・ワンダーが誘う未来へ── 『90分でブラックホールがわかる本』
記事:大和書房
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「ブラックホールが撮影されたことの何がそんなにすごいの?」とつぶやいたあなたにはまず、研究者目線の話を。
・アインシュタインが相対論で予言したブラックホールの実在が証明された。
・ブラックホールの質量など、物理量の定量的な評価がなされた。
・強い重力場における一般相対論の正しさの確たる検証がなされた。
こうしたことがブラックホール直接撮影成功の意義だとするとともに、著者はさらに本書の最後にこう語り(叫び)ます。「この発見はゴールではなくスタートだ!」
見えないのに「存在する」と予言された不可思議な天体・ブラックホール。その謎を追い求める心、センス・オブ・ワンダーさえあれば、宇宙や時空の深い理解へ、そして宇宙のはじまりや銀河、太陽系や地球の形成、生命の発生と進化へ至る、「われわれはどこから来てどこへ行くのか」という、ビックヒストリーにも迫れるかもしれません。
以下の終章の一文にも、著者のそうした想いが記されています。
──ブラックホール研究も、音楽や絵画や芸能や小説そしてアニメなどと同列で、人類の心の糧となる文化の一部なのだ。ブラックホールを含めた宇宙の謎やビッグヒストリーが解き明かされていくことで、人類の文化も天高く発展していくのである。
──まだ見ぬ世界を見たいと願い、世界の仕組みを知りたいと考え、未知の謎を解き明かしたいと希求することは、僕たちの心を豊かにする。役に立つからではなく、知りたいから。得したいからではなく、満たされたいから。
価値ある文化を生み出せる現代の社会を持続させ、さらなる素晴らしい人類文化を生み出していきたいと強く願うのはぼくだけではないだろう。
「ブラックホールとアインシュタインの予言についての本を書きませんか?」と、著者の福江純先生にご連絡したのは2019年4月末。「ブラックホール直接撮影成功!」の興奮も冷めやらぬ頃でした。小説や映画でも登場する、この謎に満ちた天体には、ロマンをそそる不思議な魅力があります。その魅力を、ブラックホール研究者にしてSF・アニメ・ゲームオタクを自称する天文学者、つまり福江先生に語っていただけたら、きっとワクワクするに違いない──その予感は、この本の原稿を脱稿していただいたときには確信に変わっていました。
「事象の地平面」「特異点」「降着円盤」「電磁放射」「赤方偏移」「相対論的輻射輸送」など、聞きなれない用語も出てきますが、心配ご無用! SF好きなだけの文系編集者の「ここ、難しくて……」「この数式の意味は?」などの質問疑問がリライトやコラムの説明で解決された本書は、文字通り<90分でブラックホールがわかる>本です。
「もし太陽がブラックホールになったなら?」「そもそもブラックホールってどんな天体?」「ブラックホールはいくつある? どこに居る?」「これから見つかるブラックホールはどんな姿?」
ブラックホールの固定概念を覆し、探索と発見の歴史を繙き、見えないはずの天体ブラックホールを可視化する試みのいままでとこれからを語る本書は読み進むほどにスリリング。『インターステラー』などのSF映画で描かれたブラックホールはどのくらい正確だった? などの検証も織り交ぜつつ、未来にはブラックホール家電やブラックホール発電、ブラックホール都市だって可能かも、というSF魂炸裂のラストでは、こんな発見の時代に生きている喜びさえ感じてしまいます。
さらにこの本の各章冒頭には、『アトム ザ・ビギニング』が人気の漫画家、カサハラテツロー氏が描き下ろしコミックを提供。著者の福江先生と不思議な少年の出会いと軽妙な会話が、読者をブラックホールの世界へ誘ってくれます。コミックに描かれたかわいくて賢い少年の正体とは……?
知的好奇心をくすぐり、いろいろな楽しみどころに満ちたブラックホール本を読み終えて感じるのは、未知なるものへのさらなる憧れかもしれません。