1. じんぶん堂TOP
  2. 歴史・社会
  3. 宇宙の誕生からドローンの登場まで―― 『【ビジュアル版】世界の歴史 大年表』

宇宙の誕生からドローンの登場まで―― 『【ビジュアル版】世界の歴史 大年表』

記事:創元社

1769年に発明された蒸気自動車(左上)の時速は約3km。15分ごとに薪を補充しなければならなかった
1769年に発明された蒸気自動車(左上)の時速は約3km。15分ごとに薪を補充しなければならなかった

世界史年表は面白いけれど……

 世界史の年表は、特定の時代や地域、分野を限定しない、通史スタイルがふつうです。世界史の副読本の巻末に付いている総合年表がその典型で、ある地域の歴史の流れをたどったり、複数の地域を関連付けたりするときにとても便利です。年表によっては政治上の事件だけでなく、代表的な書物や芸術作品なども取り上げられていて、なかなかの情報量です。レイアウトも工夫されていて、総じて一覧性が高いといえるでしょう。

 ただ、基本的に文字ばかりなので、前提となる知識がないと面白くありません。たとえば、古代の海戦に関する調べものをしたとして、ガレー船がどんな船で、どういう特徴があったのかを知らないと、実際の戦いの様子はもちろん、ガレー船の歴史的位置づけもわかりません。年表だけから知識を得ようとすると、「○○が××の海戦で勝った(負けた)」という事実で止まってしまいます。じつにもったいないことです。

ビジュアル重視の世界史年表

 本書は世界史年表の一種ですが、ふつうの年表とは体裁がかなり異なります。全体としては、先史時代から現代へと向かう通史的な体裁をとっていますが、実際にはテーマ別年表の集合体であり、興味のあるテーマを選んで読み進めることができます。先の例でいえば、本書の「船」の項を見ると、古代ギリシアのガレー船の特徴がイラスト付きで説明されていて、その前後には古代エジプトの船とヴァイキングのロングシップがやはりイラスト付きで説明されていて、船舶技術の進歩が視覚的に理解できるようになっています。

船の形や動力の変遷をビジュアル化した年表。オール、帆船から蒸気機関、ディーゼルエンジンへ
船の形や動力の変遷をビジュアル化した年表。オール、帆船から蒸気機関、ディーゼルエンジンへ

民族・国家の興亡から、世界を変えた発見・発明まで

 各年表は基本的に見開き構成で、関連する事物のイラストや写真を最大限に盛り込んでいます。古今東西の帝国の興亡といった時代と地域を横断するテーマもあれば、古代の大型建造物、地図と地図製作、武器と甲冑、遠距離通信、家庭用電気製品、スパイの歴史などのようにユニークな切り口のテーマもあり、興味が尽きません。あえていうなら文化史年表の一種ですが、ある国や地域の歴史を年代順に追っていくのではなく、あるモノやコトの歴史を地域横断的に扱っているところが、これまでの年表とはまったく異なります。

中央の武器は中世の代表的な打撃武器「メイス(鎚矛)」。出縁(フリンジ)を付けて攻撃力を増している
中央の武器は中世の代表的な打撃武器「メイス(鎚矛)」。出縁(フリンジ)を付けて攻撃力を増している

目を楽しませるレイアウト

 レイアウトも独特で、たとえば「車輪の物語」では、ペニーファージングと呼ばれる前輪が大きな初期の自転車を見開きの中心に据えて、その周囲に沿って車輪に関するトピックが写真付きで14個並んでいます(車輪の起源とされる「ろくろ」から第一次世界大戦で登場した戦車まで)。そして「物理学」では、重要な発見や発明の歴史――お風呂に浸かるアルキメデスからシュレディンガーの猫まで――がチョーク画で描かれているといった具合。きちんと読み込まなくても、ただページをめくっているだけでも好奇心が満たされること請け合いです。

人類史上最も偉大な発明のひとつ、車輪。いつ、どこで発明され、どのように応用されてきたのか
人類史上最も偉大な発明のひとつ、車輪。いつ、どこで発明され、どのように応用されてきたのか

古代ギリシャ、ミレトスのタレスは、毛皮で琥珀をこすると静電気が発生することに気づいた
古代ギリシャ、ミレトスのタレスは、毛皮で琥珀をこすると静電気が発生することに気づいた

〈記憶に残る〉世界史百科

 ビジュアルを重視した年表はほかにもありますが、本書ほど徹底したものはないと思います。網羅性の点では総合的な通史年表にはかなわないかもしれませんが、テーマを絞って調べたり、関連づけたりするのに役立ちますし、なにより情報の塊ともいえる豊富なイラスト・写真は、読む人のイメージを喚起し、記憶を定着させる効果があります。調べもの学習や受験勉強にも大いに役立つはずです。

 もっとも個人的には、そういうことを忘れて、好奇心の赴くままに読みふけっていただくのが一番だと思っています。教科書や専門書ではありませんから肩肘を張らず、気楽に読み進めれば、思いがけない発見や、すでにもっている知識の整理にもつながるでしょう。比較的高価な本ですが、本書を手にすれば、きっと満足していただけるものと確信しています。さあ、世界の歴史を縦横にかけめぐる旅に出かけましょう。

ページトップに戻る

じんぶん堂は、「人文書」の魅力を伝える
出版社と朝日新聞社の共同プロジェクトです。
「じんぶん堂」とは 加盟社一覧へ