かけがえのない「今日」という一日が彩られる暮らしの手引き「暦」
記事:大和書房
記事:大和書房
暦は季節のうつろいや風物詩を教えてくれます。二十四節気や五節供は、古くから日本人の繊細な季節感を支えてきました。大自然のリズムも、暦から読み取れます。月の満ち欠け、潮の満ち引きの時間やサイクルを知ることで、地球の鼓動を感じられ、そして、月と生き物が一つになったバイオリズムにも気がつきます。
日々の吉凶や方位の吉凶を占うことも、暦に求められるものでした。そこには自然を甘んじて受け止めるという日本人の人生観が表れています。
暦の大切な役割の一つに、「季節の推移を伝える」というのがあります。ことに旧暦だと、季節の中で今がどんな時期か、盛りか、すでに終盤か、より正確な位置を教えてくれます。そうした季節の進行具合の目安となるのが、新暦の日づけで定められた二十四節気や七十二候、五節供や雑節。月と日付けだけではつかみきれない季節のうつろいをきめ細かく示してくれます。
二十四節気が各季節を6つに分け、さらにその中を雑節や五節供が細かく区切っています。時候の小さな変化に対応するように、季節の節目がじつにバランスよく配されているのがわかります。二十四節気は古代中国で、太陰暦と太陽暦の差を修正するために考え出されたもの。太陽が1年間に移動する道筋(黄道)を24等分して、季節のうつろいの基準点としました。農作業や年中行事など、古くから生活のさまざまな場面で親しまれてきました。七十二候は、二十四節気の一つの気をさらに3等分したものです。約5日ごとに1年を72の季節に分け、5〜6日単位できめ細かく季節の歩みを表しています。
二十四節気や七十二候が季節の節目となるように、日本の各地で行われる祭りや年間行事、地方色豊かな風習なども、季節の到来やうつりかわりを告げる風物詩となってきました。全国的に知られた祭礼から地域に脈々と伝わる習わしまで、さまざまな行事が今も暮らしの中に息づき、そこに時節の彩りを添えています。
旧暦は月の運行を基準に日にちが決まるので、1日は新月、15日前後が満月になると誰でも知っていました。ですから昔の暦には、現在のような月齢に関する表記はありません。逆にいえば、月齢がわかれば旧暦のおおよその日にちがわかります。旧暦を目安に何かをするときの手がかりになります。
月齢と同じように、市販の運勢暦などで見られるのが満潮干潮の時間、大潮小潮などの潮の種類です。こうした情報は、漁業関係者、港湾労働にたずさわる人たち、航海士、釣り人などに利用されています。潮の満ち引きや動きは、魚の行動に影響をおよぼすので、漁をするうえで大切なものです。
また、港湾での作業、港への出入り、沿岸部の航行などには、時刻ごと潮位を知る必要があります。潮位が下がった時間に航行すると、座礁するような危険もあるからです。潮の満ち引きは月の影響を受けているため、月齢によって潮の種類も決まっています。旧暦1日の新月の頃なら大潮、という具合です。
日々の吉凶や方位の吉凶を占うことも、暦の上ではよく知られています。「本日はお日柄もよく」。このお日柄とは、古くから暦に載せられていた暦注というものです。毎日の吉凶や禁忌を示すもので、現代でいえば占いや運命判断といったところでしょうか。
有名なところでは大安や仏滅といった六曜、三隣亡や三伏などが、カレンダーでよく目にするものです。このほかにも干支、雑注、十二直、二十八宿、下段など、多くの暦注が伝えられています。科学の進んだ現代では、迷信と思う人も多いかもしれませんが、古くから伝わる文化の一つとして、連綿と受け継がれたものから、昔の人々の知恵や考え方を学ぶ機会になるかもしれません。
私たちの祖先が親しんできた暦からは、日本の風土に合った暮らし方や生活の知恵が読み取れます。それをうまく現代でも生かせれば、より季節に寄り添った豊かな暮らしが楽しめそうです。