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科学を志す人、恐竜像を更新したい人のための恐竜本『恐竜研究の最前線―謎はいかにして解き明かされたのか―』

記事:創元社

書影『恐竜研究の最前線』
書影『恐竜研究の最前線』

幼少期の恐竜本

 私がまだ幼稚園児から小学校低学年だったころ、近所の図書館で読み漁っていたのが恐竜本だった。そして、家の天井には父が作ったトリケラトプスのペーパークラフトが吊るしてあった。そう、私も読者の皆さんと同じように、恐竜好きの子供時代を送ったらしい。そんな幼い私には、最新情報が掲載されているであろう漢字満載の本を読むことができず、絶えず子供向けの本に目を向けていた。しかし両者を比べると、イラストの格好良さもさりながら、恐竜の姿勢や行動に違いがあったように記憶している(漢字満載の本には格好良いイラストが多く、何度その読破にチャレンジしたことか)。

 今思い返すと、この恐竜の姿勢や行動の違いは最前線の研究成果を取り入れているか否かに起因していたのであろう。また、当時は恐竜に長けたライターや恐竜本を監修する研究者が限られていたことも理由なのかもしれない。近年ではサイエンスライターによる執筆や恐竜を専門とする研究者の監修により、正確な最前線の情報を多くの方に伝えられるようになってきた。

監訳者、決まる

 今回、私たちが監訳した書籍は、古生物学の第一人者で、現在でも最前線で活躍しているブリストル大学のマイケル・ベントン教授の『The Dinosaurs Rediscovered : How a Scientific Revolution is Rewriting History』だ。本書には彼のこれまでの研究や新発見、溢れんばかりの想いがギッシリと詰まり、恐竜の姿が想像の世界から科学的仮説へと変貌を遂げていく様が書き記されていた。監訳のメンバーは北海道大学の小林快次教授に教えを乞うた3人で、『恐竜の教科書』(創元社)でも監訳を務めている。当の小林教授はというと、「若い世代で盛り上げてください!」とのことで、今回の監訳は私たち3人に任せていただくことになった(私が若い世代かということは置いておこう)。

監訳者3人。左から久保田、千葉、田中
監訳者3人。左から久保田、千葉、田中

和訳ルールの決定と編集の手腕

 ここで、監訳の流れを簡単に説明しよう。監訳とは、翻訳者が訳した日本語が適切であるのか確認し適宜修正することだ。今回はベントン教授の論文で用いられる専門用語や分類群名(科や属などに分けられた生物のグループのこと。例えば、私たちヒトはヒト上科ヒト科ヒト属で、住所のように先に書いた分類群名ほど大きなグループとなる)が多用され、伝わりやすい日本語を選ぶのに苦労する場面もあった。特に分類群名の日本語訳は研究者の間で必ずしも統一した用語を用いているわけではない。本書で私たちが日本語訳を決めた基準は『恐竜の教科書』の監訳時に遡る。例えば、TyrannosauroideaとTyrannosauridaeという分類群名がある。それぞれ上科(-idea)と科(-idae)に相当する用語だ。これらの分類群名をティラノサウルス類と訳す恐竜本もある。しかし、この訳を用いた場合、TyrannosauroideaとTyrannosauridaeのいずれかひとつにティラノサウルス類を当てることとなる。すると、両方の用語を併用することが難しくなったり、どちらの用語を指しているのか分からなくなったりして、情報を正確に伝えることができない。また、それぞれをティラノサウロイデアとティラノサウリダエと訳す方法も考えられるが、多くの読者にはティラノサウルスのような属名との区別が難しくなってしまうであろう。これらのことを考慮して、本書では分類群名の混乱を避けるため、従来から使われている上科や科を極力踏襲している。一方で、分類群名の中には語尾に-iaや-aが付くものがある。例えば、OviraptorosauriaとManiraptoraだ。現在、これらには上科や科などの分類階級が与えられておらず、かつ語尾を「類」としても重複する訳語がないことから、それぞれオヴィラプトロサウルス類とマニラプトル類と訳すこととした。

 このようにして、日本語訳の方針を定めて、3人がそれぞれ担当章の監訳を進めていった。そして、修正された原稿は編集者である創元社の宮﨑友見子さんへ送付され、編集作業が進められることになる。ここで、編集者の知識や経験、監訳者との信頼関係も監訳本には重要になる。宮﨑さんは私たちが担当章の割り当てで喧嘩(?)しないように担当案を提示してくれたり、編集作業中に気が付いた箇所に赤を入れてくれたりする。恐竜に詳しくないと指摘できない箇所も含まれており、私たちは宮﨑さんに助けられた。

発展する日本の恐竜研究

 監訳を始めて約半年後、完成したのが『恐竜研究の最前線―謎はいかにして解き明かされたのか―』だ。先にも述べた通り、ここには1970年代から現在に至るまでのベントン教授の経験が詰まっている。1970年代当時は「恐竜温血説」や「鳥類の恐竜起源説」が脚光を浴びた時期だ。その頃、日本本土では最初の恐竜化石が発見され、多くの恐竜ファンの注目を集めていた。それから40数年が経ち、19道県から恐竜化石が発見され、さらに学名が付けられた鳥類を除く恐竜は9種を数える。加えて、私の大学時代では難しかった国内の学生が恐竜化石を研究できる環境も整い、数多くの研究成果が発表されている。本書は、恐竜に限らず科学を志す学生の皆さんの入門書としても、また幼少期に恐竜に触れた方の恐竜像の更新にも、最適な情報を満載している。

 是非、本書を開いて、科学の世界に触れてみてください。

モンゴルのゴビ砂漠。日本の学生が活躍するフィールドのひとつ
モンゴルのゴビ砂漠。日本の学生が活躍するフィールドのひとつ

動画『恐竜研究の最前線 謎はいかにして解き明かされたのか』

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