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和田誠さんの新たな「聖地」、蔵書3700冊が読める渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」

記事:じんぶん堂企画室

和田誠さん(右)が手がけた本(左上)などが寄贈され、2021年にオープンした渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」
和田誠さん(右)が手がけた本(左上)などが寄贈され、2021年にオープンした渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」

 誰もが一度はその仕事を目にしたことがあるのではないだろうか。イラストレーターの和田誠さん(1936〜2019)。グラフィックデザイナーやエッセイストとしても活躍し、映画監督も務めるなど、多才な活躍をしたことで知られる。

 そんな和田さんが手がけた本や蔵書など約3700冊が、渋谷区立中央図書館(東京都)に寄贈され、「和田誠記念文庫」として公開されている。

「和田誠記念文庫」の本棚
「和田誠記念文庫」の本棚

 和田さんの自宅と事務所がこの図書館の近所にあったことから縁がつながり、寄贈にいたったという。昨年12月にオープンしたばかりの「和田誠記念文庫」。あの和田さんはどんな本をつくっていたのか、あの和田さんはどんな本を読んでいたのか。気になって訪ねてみた。

仕事場を再現、記念撮影も可能

装丁した本を手にする和田誠さん=1992年 (C)朝日新聞社
装丁した本を手にする和田誠さん=1992年 (C)朝日新聞社

 原宿駅から竹下通りの喧騒を抜けると、渋谷区立中央図書館が見えてくる。取材で訪れた時には期間限定で、階段の壁に、和田さんが手がけてきたポスターの数々が展示されていた。「麻雀放浪記」や「カサブランカ」など名画のポスターや、1985年に開催された「国際科学技術博覧会」(つくば万博) の公式ポスターもあった(ポスターの展示は終了)。

階段に展示されたポスター
階段に展示されたポスター

 和田さんは1953年、高校2年のときに東京国立近代美術館で開かれていた「世界のポスター展」をみて感動。自分も「ポスターをつくる人になりたい」と思うようになったという(『定本 和田誠 時間旅行』玄光社、2018)。ポスターに導かれて到着した4階フロアの一室に、「和田誠記念文庫」があった。

ヒツジがあしらわれた扉のプレート
ヒツジがあしらわれた扉のプレート

 扉に掲げられた銀色のプレートには、かわいらしいヒツジが描かれている。和田さんと妻の平野レミさんが牡羊座で、会社の表札や原稿用紙にあしらっていたマークという。

 入室してまず出迎えてくれるのが、大きなテーブルと椅子だ。

 「このテーブルは、和田さんの事務所で実際に使用されていたものです。テーブルは打ち合わせに使われていたそうで、和田さんとお仕事されていた方たちはみなさん『和田さんの仕事場にきたみたい』とおっしゃいます」

テーブルや本棚で再現された仕事場
テーブルや本棚で再現された仕事場

 そう説明するのは、勝部弘樹館長。6脚のイスがセットされたテーブルは、和田さんが特注したもので、脚部のデザインにも特徴があり、なんともお洒落だ。

 室内の壁には、本がぎっしりと詰まった本棚が並んでいた。これらの本棚もすべて和田さんの事務所で使われていたもの。和田さんの自著本が約400冊、装丁本が約2000冊、資料としてコレクションしていた蔵書が約1200冊などがあり、貸出はしていないが、実際に手にとってみることができる。

和田さんの自著本の棚
和田さんの自著本の棚

 「和田さんの本は、カバーをめくると表紙に異なるイラストが描かれていることがあります。ですので、通常貸出している本とは異なり、汚れ防止の保護フィルムを工夫してかけ、カバーをめくって表紙もみられるようにしています」(勝部館長)

カバーをめくって表紙が見られるようになっている
カバーをめくって表紙が見られるようになっている

 個々の本の撮影はできないが、「和田誠記念文庫」の中では記念撮影も可能だ(ただし、フラッシュをたいたり、他の利用者が写り込むことは禁止)。和田さんの仕事場を訪れた雰囲気を味わいたいファンにとってはうれしい「聖地」になりそうだ。

蔵書と資料から和田さんの足跡をたどる

 和田さんは1936年、大阪市で生まれた。1945年に一家で東京に転居、終戦を迎える。幼いころから絵を描くのが好きで、早くも12歳のときには、児童雑誌「赤とんぼ」に挿絵が掲載された(「ISSUE 和田誠のたね」スイッチ・パブリッシング、2021年)。

映画関係の資料の一部
映画関係の資料の一部

 映画好きは、少年時代にアメリカ映画をみてから。その後、映画のポスターを手がけるなど映画の分野でも活躍、「麻雀放浪記」や「快盗ルビイ」では監督を務めた。「和田誠記念文庫」には映画関係の資料が多く、和田さんが撮影中に使用していたディレクターズチェアも展示されている。これらの貴重な蔵書と資料は、和田さんが2019年10月に死去したのち、ご家族から寄贈したいと申し出があったことがきっかけで図書館に収集された。

和田さんが使っていたディレクターズチェア
和田さんが使っていたディレクターズチェア

 勝部館長はこう振り返る。

 「ご家族からは、本がたくさんあるので、広く皆さんに見ていただきたいというお話がありました。そこで、私たち職員で事務所にお伺いしまして、膨大な本の中から、和田さんのご著書や資料を中心に選書してご寄贈いただくことになりました」

 展示もご家族と事務所のスタッフ、図書館が相談しながら、現在のような形になったという。

和田さんが参照していた資料の一部
和田さんが参照していた資料の一部

 和田さんが多岐にわたる分野で活躍してきたことはよく知られているが、「和田誠記念文庫」に並ぶ自著や装丁本をみると、その仕事量に圧倒される。資料として集められた本とあわせてみれば、和田さんのこれまでの足跡が立体的に浮かび上がる。

 「和田さんは、渋谷区にゆかりのある方で、地元の図書館としてそのお仕事を広くみなさんにみていただくことは、非常に意義があると思っています」と勝部館長は話している。

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