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読み聞かせ絵本で、子どもは親の「秘密」に気づく セルジュ・ティスロン『家族の秘密』

記事:白水社

 親たちは、しばしば絵本を通じて、子どもたちとコミュニケーションをとる。知らないうちに、親が秘密にしていた心配事や懸念についても。実際、絵本作品のなかには、考えうるすべての家庭的状況が見いだされる。それは旅行、旅立ち、別離、転居、祖父母の存在や不在、隠し子、幽霊屋敷、色々なアクシデント、出所のわからない金銭、などである。

 親たちは、明らかに、意識的にこだわっている美学や価値観に従って、読み聞かせる絵本を選択する。だが、彼(女)らはまた、自分たちに隠された欲望や埋もれたトラウマ、あるいは自らの親たちから応答もないまま長らく放っておかれた問いによって導かれてもいる。

 読者は、そんなことは大して重要なことではないと考えるかもしれない。だが、友人たちから贈られた本は別にして、家族はそれぞれ、こんなふうに絵本を購入する。子どもたちは、そのため、数多くの多様な物語に対面することになる。家族における出来事を知らないうちに懸念していた親からのプレゼントは、それゆえ、その他の贈り物のなかでも、いくらか「滲みこんで」いる可能性は大いにある。

 だが、そんな絵本が家庭内にあるとすれば、子どもが真っ先に読み聞かせて欲しがるのは、しばしばそういった本である! したがって、養子になった子どもの問いかけによって、集合的な記憶に苛まれるような家族では、男の子はしきりに、カバの家族のなかで育てられたキリンのお話をせがむのである。

 あるいは、自分の妻や子どもたちを捨てて、ひそかに祖父が蒸発していた家族において、幼い子どもらは、一家をたったひとりで育て上げていく母親ビーバーの冒険物語を選んでいた。この二つの事例において、子どもたちは、家族の歴史について何も知らない。だが、子どもの選択は、何ら不可思議なものではなかった。

 子どもたちは、親たちが抱える強烈な情緒に容易に気づいており、それらが特別な関心を引いていたのだ。強烈な情緒とは、たとえば、多少とも豊かであったり、含みのあるイントネーションや、きわめて生き生きとした身振りであったり、声の調子にみられる微かな震えであったりする。

 子どもは、親たちが抱えるこうした動揺の原因についてまったく何にも理解していなくとも、自ら感じ取るままに、改めて知ろうとするのである。特に、子どもが読み聞かせてもらおうときわめて熱心に求める絵本は、親のいずれか、あるいは家族全体に秘められた懸念としばしば共鳴する。

 そうした事象の背後には何の「思考の伝達」もない。あるのはただ、親の情緒に対する子どもの鋭敏な感受性だけである。さらにいえば、子どもがこうした形で受け取る情緒が助長させるものは、以下の事実と関係する。それは、私たちの心の内的状態が、話される言葉のみならず、何らかの状況やイメージと関係した身振りやしぐさ、態度などによって伝わる事実とつながっているということである。

(『家族の秘密』より抜粋)

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