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グーグル翻訳があれば外国語学習はもう必要ない? マシュー・レイノルズ『翻訳 訳すことのストラテジー』

記事:白水社

翻訳とはある言語から別の言語に、というシンプルなものではない。それはつねに、ある言語の部分集合から別の言語の部分集合への動きなのだ。たんにフランス語から英語にうつすのではなく、フランス語でのファッションの会話から英語でのファッションの会話にうつすのだ。あらゆる会話が以前の会話の部分部分を並び替えたものなら、この言語の部分集合の中で、どんな語やフレーズがあらわれやすいかをあらかじめ想定することができる。国連の通訳がまさにそうだ。言語を使うということは驚くほど、先行する言語の使い方のまねなのだ。そして翻訳という行為には、すでにどこかで訳された内容の再翻訳がつきものなのだ。この知見は、コンピュータ翻訳にとって画期的だった。〔……〕

以下は、旅行サイト「トリップアドバイザー」のゲストレヴューを、先駆的な統計ベースのプログラム、グーグル翻訳が英語にしたものだ。

In Lanzhou, Jinjiang position better than the Mandarin and Crowne Plaza. Just a little old facilities, services is not dominant. Breakfast overslept, no experience. The hotel’s transportation is convenient, although near the noisy area, probably because of the high floors medial, still relatively quiet. The hotel’s free Wi-Fi off, less effective.
蘭州では、ジンジャンはマンダリンやクラウン・プラザよりも地位が上だ。いくぶん古い施設、サービスは特によくない。朝食が寝過ごし、経験なし。ホテルの交通は便利だが、うるさい地区のそばにある。おそらく並に高い階だったせいで、まだ比較的静かだ。ホテルのフリーWi-Fiはオフで、効果的ではない。

〔……〕このグーグル翻訳はこなれた感じのつぎはぎだ。just a little、probably because of、still relatively quietなどなど。プログラムが人間のソースに依拠し、再利用していることがわかる。まだそういった言いまわしを完璧に縫いあわせるところまでいかないのだ。統計的な翻訳アプローチと文法をベースにした翻訳アプローチの最大の差とは、統計ベースのプログラムは自分自身を改良できる点にある。グーグル翻訳でその都度翻訳を修正してやれば、プログラムはそのデータを活用する。Duolingo(デュオリンゴ)のような言語学習アプリでのエクササイズも、機械翻訳に提供される。実際、毎回、なにかの翻訳はデジタル化され、オンラインで利用可能になり、コンピュータにとりこまれて将来の選択の糧になる。

人知を超えたテクノロジーが進歩するスピードはすさまじい。テクノロジーは言語と人間の関係性を急速に変えつつある。以前は不可能だったコミュニケーションを可能にする。知っているつもりの言語が、へんてこに変換されてでてくる。breakfast overslept, no experienceという文はどうだろうか。なにを言おうとしているのかはわかる。でも、これもことばのひとつとして楽しんでもいい。これは、詩みたいなものなのだ。

(『翻訳 訳すことのストラテジー』より抜粋)

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