それは、果てなく続く「歴史絵巻」 【ミネルヴァ日本評伝選】シリーズ通巻200巻を刊行!
記事:ミネルヴァ書房
記事:ミネルヴァ書房
『ミネルヴァ日本評伝選』は、ミネルヴァ書房創業55周年の特別企画として2003年9月10日より刊行が始まった。今年の9月10日に通巻200巻目の節目を迎え、当初の予想を上回る、月一巻というハイペースで刊行されてきた。
これもひとえに監修の上横手雅敬・芳賀徹両先生をはじめ編集委員の先生方
のお力添えのたまものと、まずは感謝を申し上げたい。
200巻ともなれば『日本評伝選』は、一巻一巻の〈つらなりのなかから、列島の歴史はおのずからその複雑さと奥ゆきの深さをもって浮かび上がってくるはずだ〉と「刊行の趣意」にあるように、シリーズそのものを、わが国の壮大な「歴史絵巻」になぞらえることができるだろう。それは、古代から現代までわが国の、各ジャンルの個性ある主人公がくりひろげる、さながら大河小説の趣をもって展開される歴史ドラマだ。
ある巻では、今まで顧みられることの少なかった人物を積極的に取り上げて表舞台に立たせ、またある巻では、残された事績の割には、低い評価しか与えられてこなかった人物を位置づけ直すことを試み、さらにわが国の歴史に重要な足跡を印した外国人にも多くの巻を当て、アジアから学び、欧米からも学んできた、われわれ祖先のたゆまざる努力と開かれた姿勢を明らかにするという、今までにないユニークで挑戦的なシリーズで、読者としての私にとって「驚きと発見」の連続であった。
まず一つには、歴史の表舞台で活躍する「主役」の役目もさることながら、『永井尚之』(ながいなおゆき)の巻のように知られざる名脇役の存在に気づかされ、こうした人物が歴史を裏から支えてきたのかという発見があった。
次に、「評伝選」は歴史小説ではない。「史料」でもって語らせる事実の存在を軸にすえ、人物をどう描くのか――それが執筆者の腕の見せどころ、「評伝選」の醍醐味であるが、『真田氏三代』はその典型であった。
さらに、今までの評価をくつがえす、著者の大胆な視点――負から正への転換をはかった『平泉澄』(ひらいずみきよし)の巻などは、このシリーズの面目躍如といってもよい一巻だった。
重ねて驚いたのは、この多彩で重厚な、専門書に近いといってもよい「評伝選」に創刊以来ずっとお付き合いいただいている読者のレベルの高さで、「愛読者のたより」に色々教えていただいた。
200巻の節目は迎えたものの、この終わりのない「絵巻」は1000巻を見据えればまだ一部を終えたところといえる。ドラマは尽きぬ。それほどわが国にはキャストが豊富なのだ。
「評伝選」をつくるきっかけは、私自身の若い頃からの歴史好きが昂じて、特に歴史上の人物に興味を惹かれ、編集者として『三木清』『西田幾多郎』や『北一輝』など多くの人物伝を企画してきたことにある。そうした単行本ではもの足りず、吉川弘文館の「人物叢書」や清水書院「人と思想」などに少なからず触発されて、先行企画に学びつつも、独自の切り口で、学問の成果に裏打ちされた本格的な評伝をつくれないか、それにもっと血の通った人物伝にするには、〈評伝〉という方法こそがもっともふさわしいし、ミネルヴァらしいシリーズになるのではないか、と考えた。
幸い、先に挙げたすぐれた監修者や編集委員の先生方にめぐまれて、それが確信に変わった。先生方の存在がなければ百巻までもなし得なかったであろう。改めて御礼の言葉を申し上げたい。
果たして、200巻目を迎えた『ミネルヴァ日本評伝選』が当初の目的を達し得たかどうか――は、読者の判断を待つより他ないけれど、「評伝選」が続く限り、全社一丸となって心をこめて取り組んでいきたいと思っている。