この1冊でおもしろいほど日本美術がわかる! 古田亮編著『教養の日本美術史』
記事:ミネルヴァ書房
記事:ミネルヴァ書房
美術の歴史を学ぶことは、単に過去にあった事柄や作品の存在を知るだけの学びではない。……そこに何を感じ何を考えるか、それが重要な問題となる。ある時代の特徴や変化について知ることは、そのヒントを得るための「生きた学び」である。
本書は、中学や高校では科目として教わることがなかった日本美術史について、……初心者が安心して通読できる入門書になることを目標としている。……学ぶにあたって重要な事項、作品、作者についての基礎知識を得ることができる内容となっている。しかし、それが知識のための知識に……終わらない工夫も重要であろう。
各章は、各々その分野の専門の研究者たち(目次に記載)が分担執筆している。それゆえに学問的に高度な内容を含んでいるが、専門的で難解な表現はできるだけ避けて、誰もが関心のある、あるいは知っている歴史や文学の話題などを手掛かりにしながら、美術史をより身近に、生き生きと記述することが心掛けられている。また豊富な図版(巻末に詳細な年表とリストを記載)を駆使して、できる限りその作品の造形的な特徴や美術史的評価について、視覚にうったえながら記述している点も特徴と言えるだろう。……覚える美術史ではなく、考える美術史であってほしいという思いを、「教養の」というタイトルに込めているのである。
本書の構成は、縄文・弥生から奈良、平安、鎌倉から室町、戦国から江戸中期、江戸後期から幕末、近代、そして現代と時代区分の通史のほか、関連する時代のそばに彫刻、水墨画、建築、書、やまと絵、やきもの、浮世絵とそれぞれのジャンル史の通史も並置している(工芸作品はコラムでも紹介)。この特徴的な構成は、時代史(縦糸)、ジャンル史(横糸)として立体的な美術史の理解につながる。また、作品の詳細な年表とリストを巻末に置き、所蔵館や国宝、重要文化財指定の有無がわかるようにしている。本文で興味を持ったら巻末のリストを見てほしい。それを参考に実際に作品で出あうこともできる。
本書では、通史(時代ごとの)だけではなく分野ごと(ジャンル史)の歴史的記述を章として独立させている。このことは、入門書としては類例のない画期的な構成ということができる。
はじめは通史だけを追って学んでいくことも一つの方法であろう。できれば、通史とジャンル史を行きつ戻りつしながら、複眼的な視点で思考を養ってもらいたいと願っている。
この構成は、下記のような効果を狙っている。
絵画史を例にとれば、やまと絵と水墨画という二つの絵画ジャンルを章立てしている。これまでの概説書では、やまと絵は平安時代、水墨画は室町時代に隆盛したと記述されているのみで、その後の展開を追っているものは少ない。時代史からとらえれば確かに、その時代を特徴づけるに至る新たな分野を重点的に学ぶことは効率的かもしれないが、それだけでは、近代にまでつながる連続的な関係性が抜け落ちたり、なかったことになりかねない。こうしたことに目を向けることもまた、政治史などとは違う美術史特有の課題である。
この本に込められた著者たちの願いと構成を理解いただけたと思う。昨日と違った美術鑑賞の世界へ、日本中、そして世界中の美術館・博物館へ! あなたも今日から日本美術通!
本書の記述で心掛けていることは、覚えることを目的とした事実の羅列ではなく、なぜある作品がその時代に生まれ、どのような点で前後の時代と違った特徴を持っているのかを明示していくことである。作品の持つ歴史的意義や、作品を作品たらしめている特異な点を明らかにすることによって、その作品をより深く理解し、ひいてはその素晴らしさをあじわうことにつながることだろう。
本書がみなさんをより豊かな鑑賞体験へ導くことができるように願っている。
(『教養の日本美術史』より抜粋、説明のため一部補足)