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モダンデザインの学校を、絵本でまなぶ。『バウハウスってなあに?』

記事:白水社

刊行に寄せて

 Was ist das Bauhaus?(バウハウスってなあに?)と、鮮やかな絵本の表紙から可愛らしい文字で問いかけられた時の気持ちは忘れることができません。

 創立100周年を前に、美術館、コンサート、さらには文具店のフェアに至るまで、随所でバウハウスの名を見かけるようになったある日、まさにその誕生の地、ヴァイマルでふと手にとったのがこの絵本でした。

 バウハウスに関する研究を志していながら、この問いに対し即座に答えることが自分にはできるだろうか──焦燥と、好奇心とに駆られて、夢中でページをめくりました。

 中に溢れていたのは、絵本にはめずらしいほどの文字量と、バウハウスらしく青・赤・黃を基調としたユーモラスな挿絵でした。

 バウハウスは現代の私達の生活に大きな影響を与えていると言われているものの、広範囲に、実生活の隅々にまで入り込んでいるだけに、私達はその事に気づかず過ごしている場合が多いのではないでしょうか。バウハウスの歴史を辿れば、当たり前と思っていたことをもう一度新鮮な目で見つめ直すことができるかもしれないのに、知らずに過ごしているなんて、もったいない。このような、広すぎてつかみにくいバウハウスの世界を、この本は子ども達の素朴な疑問に答える形で分かりやすく語ってくれます。疑問のバリエーションは、窓の開け方からお風呂の入り方まで。それらが、思わず笑ってしまうようなイラストと共に多様な切り口から解き明かされてゆくのです。バウハウスってなあに? という問いへの答えは一言では表しきれません。しかし、絵と文字を組み合わせたこの一冊であればバウハウスの世界を大人とも子どもとも共有できるかもしれない──そう考えて翻訳に取り組みました。

 翻訳にあたって、どの程度専門的な用語を使うか、とても迷いました。研究書の範疇には収まらない一方で、かなり詳しく踏み込んでバウハウスを解説し、幅広い層の読者に向けられたこの原書の魅力を生かすために試行錯誤しました。

 その結果、普段から絵本や児童書に触れる年代の読者の皆さんにはあまり馴染みがないような言葉でも、バウハウスに親しむために欠かせないものは残すことにしました。まずは絵と照らし合わせながら、バウハウスの雰囲気を身近に感じていただければ嬉しいです。

 学校での科目名が図工から美術に変わるくらいの年代の読者の皆さんには、巻末の用語解説や年譜も参照しつつ、疑問や興味を出発点にさらにご自身で色々調べながら読んでいただければと思います。「美術の授業」って何なのだろう、と改めて考えるきっかけにもなるでしょう。そして、日頃抱いてきた「学校」というもののイメージを根底から問い直す材料にもなるはずです。さらに、建築や家に限らず「歴史」への新しいアプローチを発見する一助にもなることでしょう。

 触れる媒体が文字よりも画像中心になってくる年代の読者の皆さんには、いわば原点回帰の機会を提供できるのが本書、そしてバウハウスの力です。今日、デザイン性、見映えのする写真、フェスなどなどが日常の一部となっていますが、この状況にもバウハウスは一役買っています。モダンデザインの源流のひとつと言われ、大衆社会に新たな美や暮らしの快適さを求める意識の種を蒔いた当時のパイオニア達は、一方では古くからの手工芸にも重きを置こうと謳っていました。童心にかえって鮮やかな紙をめくりながら、100年前の古さと新しさのせめぎ合いに思いを馳せてみてください。

 また、絵本という言葉の響きからも離れて久しい読者の皆さんの中には、バウハウスという単語に聞き覚えがあるという方、家や建物に関心が高い方、身の周りのデザインが気になるという方がたくさんいらっしゃると思います。結局バウハウスとは何だったのか、この本の中に、話の種を見つけていただければ幸いです。

 そして、建築、デザイン、舞台、研究、教育など様々な形でバウハウスに携わっていらっしゃる読者の方々は、訳文に加えこの絵本に関してもきっとご意見をお持ちになると思います。上述のように、この原書は年齢・専門分野を問わない幅広い読者層にバウハウスを紹介する画期的な絵本として誕生しています。その目的を引き継ぐこと、語弊・誤解を生まない言葉の選択、原文の意図を損なわないこと、そしてできる限り原文に忠実であることを常に心がけて推敲を重ねました。引き続き、さらなる改善に努めてゆけるよう、ご助言・ご提案などをいただけましたら幸いです。

 創立100周年の記念すべき時に刊行された本書が、読者一人一人の日常を照らし出し、100年の時を紡ぎ直す多彩な糸となるよう心から願っています。(大宮萌恵)

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