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『世界ではじめての女性大統領のはなし』著者インタビュー~ラウン・フリーゲンリングさんが語る、子どもたちと世界への希望

記事:平凡社

『世界ではじめての女性大統領のはなし』の著者ラウン・フリーゲンリングさん
『世界ではじめての女性大統領のはなし』の著者ラウン・フリーゲンリングさん

ラウン・フリーゲンリング作、朱位昌併訳『世界ではじめての女性大統領のはなし』(2024年5月24日刊、平凡社)
ラウン・フリーゲンリング作、朱位昌併訳『世界ではじめての女性大統領のはなし』(2024年5月24日刊、平凡社)

絵本に込めた思いと、日本で出版される意味

――ようこそ日本へお越しくださいました。まず、この絵本が日本で出版されたことについて、どのように受け止めていますか?

 とても意味のあることだと感じています。この本が日本で紹介されてとても光栄です。アイスランドやジェンダーについて、知ってもらえるきっかけになればうれしいです。

 この本の主人公であるヴィグディスさん本人にも日本語版を差し上げて、すごく喜んでいました。彼女は今年で95歳ですが、とても元気です。

 アイスランドでは、最近また女性が大統領に選ばれました。それもあって、ヴィグディスさんの存在がふたたび注目されています。

――「女性の休日」(※1975年10月24日にアイスランドの女性たちが家事や職場の仕事を一斉に放棄したストライキ)のような、女性の権利に関するアイスランドの取り組みが日本でも報道されるようになり、絵本にも関心が集まっている感じがします。日本では、親世代が子どもに絵本を手渡すということもあるようです。アイスランドでも似たような傾向がありますか?

 ええ、まったく同じようなことが起きています。ヴィグディスさんのことをよく知っている世代の親たちが、「こんなすばらしい女性がいたんだよ」と子どもたちに伝えているんです。そしてその流れの中で、この絵本が手に取られている。とても自然な形だと思います。

――絵本では、少女がヴィグディスさんの家を訪ねて、直接話を聞くという構成になっていますね。これはどのように生まれたのでしょうか?

 実はこの構成、私自身の体験がベースになっています。絵本を描く前に、本当にヴィグディスさんの家を訪ねたんです。ドアをノックしたら、快く迎え入れてくれて、一緒にコーヒーを飲みながら彼女の話を聞きました。

 そのときの印象がとても強くて、「この雰囲気を絵本にしたい」と思ったんです。彼女のリビングルームには、外交で贈られた品々や、大統領時代の思い出の品がたくさんあって、ひとつひとつが物語を語っているように感じました。それで絵本では、モノたちが「語りだす」ようにしました。

自称「作家」の女の子が「世界で初めて大統領に選ばれた女のひと」に取材するところから物語は始まる
自称「作家」の女の子が「世界で初めて大統領に選ばれた女のひと」に取材するところから物語は始まる

子どもたちに、勇気と希望を

――この絵本を通して、子どもたちにどんなことを伝えたいですか?

 まずは「楽しんで読んでほしい」ということです。物語としてワクワクしながらページをめくってもらえたら、それだけでうれしいですね。そして、そのうえで「ヴィグディスというすばらしい女性がいたこと」を知ってもらえたら。

 彼女は、子どものころは船長になりたかったんですよ。でも、実際には大統領になった。絵本の中の少女は作家になりたいと思っています。だから、この絵本を読んだ子どもたちが、「もしかしたら、私にもできるかもしれない」と思ってくれたら最高ですね。

――実際に読者からどんな反応がありましたか?

 とてもうれしい声がたくさん届いています。ある小さな女の子はこの本を何度も読んで、まるでヴィグディスさんを本当に知っているかのように話してくれたんです。あれは本当に感動しました。

 学校の授業の一環として読まれることも多く、子どもたちが自分の「ヴィグディス像」を描いて、教室に展示してくれたこともありました。アイスランドのとあるサッカーチームが「ヴィグディス」と名乗り、私のイラストを使ったユニフォームまで作ってくれたときは、驚きと同時にとても誇らしく思いました。

――ラウンさんご自身の子ども時代の夢は?

 小さいころは作家になりたかったし、自転車で荷物を届ける配達員にもあこがれていました(笑)。でも当時は、自分が本当に作家になれるなんて思ってもいませんでした。だからこそ、今の子どもたちに「夢は案外かなうかもしれないよ」と伝えたいんです。

「最初のひとり」が生まれるには、社会の支えが必要

――ヴィグディスさんが大統領になった背景には、どんな社会の力があったと思いますか?

 もちろん彼女自身の魅力や力はありますが、それだけではありません。立候補を後押ししてくれた人々がいました。「最初のひとり」が輝くためには、その人を受け入れるための土壌が社会に必要なんです。

 ヴィグディスさんは「ガラスの天井を破った人」として称賛されることが多いですが、その背後には無数の人の努力と連帯があります。それを忘れてはいけないと思います。

――1975年の「女性の休日」は、そのひとつの象徴ですね。

 はい。アイスランドの女性たちが一斉に家事や仕事を休んで「私たちの存在なしでは社会は成り立たない」と示した日です。男性たちは協力して子どもを預かったり、料理を作ったりしました。あの日のインパクトは今も語り継がれていますし、「女性を大統領に」という声が生まれる大きなきっかけにもなりました。

 このストライキは何度も行われています。近年では、男女の賃金格差に合わせ、女性が午後2時ごろに退勤するという象徴的な行動もありました。アイスランドは16年連続でジェンダーギャップ指数世界1位にランクされていますが、それでも差別や偏見はなくなっていません。だからこそ、過去の闘いを子どもたちに伝えていく必要があると思っています。

――日本のジェンダー平等については、どのようにご覧になっていますか?

 私はアイスランドの人間なので、日本について断言するのは難しいですが……ジェンダー平等は女性だけの課題ではなく、社会全体の課題だという視点が大切だと思います。

 変化には社会の意志と土台が必要です。女性の声が家庭でも職場でも届くこと、だれもが耳を傾ける姿勢を持つこと。それがジェンダー平等の第一歩だと思います。

日本の読者へのメッセージ

 まずは、この絵本を楽しんで読んでほしいです。その楽しさの中から、ヴィグディスさんのこと、アイスランドという国、そしてジェンダー平等について「ちょっと気になるな」と思ってもらえたらうれしく思います。

 それと、私の絵本は完璧ではありませんが、遊び心と自由さにあふれています。子どもたちや親御さんたちにも、「自由に物語を語っていい」「自分らしく表現していい」と思ってもらえたら、それが何よりの願いです。

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