注目の少女、グレタさんにも応えられる『コトラーのソーシャル・マーケティング』
記事:ミネルヴァ書房
記事:ミネルヴァ書房
いま「ソーシャル」を冠した言葉が百花繚乱(りょうらん)である。ソーシャル・マーケティングを筆頭に、ソーシャル・イノベーション、ソーシャル・ビジネス、ソーシャル・プロダクツなど……。なぜそうなったのか。それは企業が推進した利益追求型の社会が、公害や自然破壊、貧困などさまざまな社会問題をもたらし、綻(ほころ)びがみえたからにほかならない。そこで叫ばれたのが、そうした私的な利益ばかりを追うのではなく、公益に資することを考えよう、それを優先させようという考え方である。
「ソーシャル」と名のつくもののベースにはこうした考え方があり、いずれも社会で困っていること、つまりは課題を見出し、解決していくことに主眼を置いている。
マーケティングの泰斗、コトラー教授は、いち早く利益追求型社会の限界に気づき、企業の利益ばかりを優先するマネジリアル・マーケティングに見切りをつけ、社会全体の利益を視野に入れたソーシャル・マーケティングを提唱した。コトラー教授のマーケティング理論の根底には、このソーシャル・マーケティングの思想が脈々と流れており、それはいまも変わらない。昨今は「サステナビリティ(持続可能性)」にも目配りをし、「コミュニティー基点型のソーシャル・マーケティング(Community-Based Social Marketing:CBSM)」と名づけた情報集約的な運動を推奨している。
『コトラーのソーシャル・マーケティング 地球環境を守るために』では、このCBSMの手法を環境分野の事例を挙げながら詳細に解説している。まずは5ステップで活動を進めるべきだとしているので紹介する。
Step1:ターゲットとすべき行動を選択する。
Step2:選択された行動への「障害」および「便益」を識別する。
Step3:行動への「障害」を減らしつつ、行動の「便益」が目に見える形で自然と増えてくるような戦略を構築する。
Step4:戦略を実施する。
Step5:その戦略が広範囲に実施される場合には、広範囲な実施・継続的評価の査定を行う。
では、実際に行われた各国の成功事例をみていこう。たとえば、カナダのトロントで行われたアイドリング反対運動では、最初にパイロットテストとして、学校の駐車場とトロント交通局の「キス・アンド・ライド(送り迎え)」の場所で行うことを目指した(Step1)。つぎに以下のように「障害」と「便益」を洗い出した(Step2)。
・運転者はよく車のエンジンを切り忘れる。
・運転者はアイドリングの時間に無頓着。
・運転者はエンジンを切ることを意識しなければ、エンジンを切ることができない。
・寒い時期にアイドリング反対運動を行うのは、快適さと安全性を欠くので、プログラムは暖かい時期に行うべきである。
戦略はこうだ(Step3)。①サインのみの戦略。「エンジンを切ろう。よりよい環境のために」と記されたステッカーを当該区域に貼っておく。②サイン、誓約、個人的な接触を用いた戦略。フロントガラスに「ノー・アイドリング」と書かれたステッカーを貼ってもらう。さらには一歩進めてアイドリングしませんと誓約した人に限りステッカーを配布し、車の窓に貼ってもらうことで、本人にはそのことを思い出させるものとして、また他者へはアイドリング防止のアピールにつなげる。
そして実施する(Step4)。
この運動は①のサインのみの戦略では、まったく効果が得られなかったものの、②ではアイドリングの27%削減、アイドリングの継続時間を78%削減することに成功した。その後カナダ天然資源省はカナダ国内2カ所で同様の試みを行って同様の結果を得、対象をさらに広げることになった(Step5)。
ほかにもアイルランドのレジ袋削減とマイバッグの利用促進運動、カナダのダーラム地方で行われた水使用量の削減運動、アメリカ、オレゴン州ポートランドで実施された食べ残しの再利用運動「フォーク・イット・オーバー」、ベトナムのラジオドラマを駆使したコメ農家の殺虫剤使用削減運動、ヨルダンの水不足撲滅運動、スペイン、マドリッドの消灯を促す運動などの成功事例を紹介している。
コトラー教授から日本版発行に際して次のようなメッセージが寄せられている。
「日本の人たちは、美しい自然環境の保護を守るための驚くべき能力をもっています。(中略)日本の人たちは原生自然を愛しているばかりでなく、自然をより一層美しく保護していくために不断の努力をしてきたといってもいいでしょう」
これだけの高い評価を得ながら、環境に対して無関心を貫いたり、何らアクションをとらないという選択肢はない。スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが叫び続けることになる。
さあ、あなたもコトラー流のソーシャル・マーケティングを学び、活動を始めてみませんか。