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韓国で130万部超の『82年生まれ、キム・ジヨン』 書店員が伝えるその魅力

記事:筑摩書房

『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)
『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)

 「キム・ジヨン氏、三十三歳。三年前に結婚し、昨年、女の子を出産した」。小説『82年生まれ、キム・ジヨン』はこんな文章から始まる。

 中堅企業に勤める夫と娘の3人で、ソウルのはずれにあるマンションに住んでいる。そんなある日、彼女は突然自分の母親や友人の人格が憑依(ひょうい)したように振る舞い始める。いったい何が彼女の精神に歪(ゆが)みをもたらしたのか――。

 K-POPアイドルユニットのRed Velvet・アイリーンが「読んだ」と発言しただけで大炎上し、少女時代・スヨンは「読んだ後、何でもないと思っていたことが思い浮かんだ。女性という理由で受けてきた不平等なことが思い出され、急襲を受けた気分だった」(『90年生まれチェ・スヨン』 より)と、BTS・RMは「示唆するところが格別で、印象深かった」(NAVER Vライブ生放送 より)と言及。さらに国会議員が文在寅大統領の就任記念に「女性が平等な夢を見ることができる世界を作ってほしい」とプレゼント。韓国で社会現象にまで発展したこの小説は、誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児……キム・ジヨン氏(韓国における82年生まれに最も多い名前)の人生を克明に振り返る中で、女性の人生に立ちはだかるものが浮かびあがる構成となっている。

 「程度の差こそあれ、思い当たらない女性なんて居ないと思う。主人公ジヨンの出会う男性すべてタチが悪い訳ではなく、優しい、理解ある男性だってもちろんいる。だけどそういう優しい良い人ですら女性蔑視から無関係ではいられない、そのくらい『女性とはこうあるべき・こういうもの』という根拠のない固定概念が社会に根深く刷り込まれている、それが本当に悲しい事だと思います。(女性自身ですらその刷り込みが内面化されてしまっているくらい、疑う余地もない常識として、定着してしまっているというか……)

 今すぐ社会をガラッと変えることはできないけれど、私も、ジヨンが出会った年上の女性達のように、自分と同じように戸惑っている女性がいたら彼女が世の中に絶望しないよう手を差し伸べる存在でありたい、と強く思いました」 ――82年生まれ、佐貫聡美(紀伊國屋書店 和書販売促進部 書店員)
 「性別や世代、学歴、仕事。いくつもの境界線に躓いて、気づけば大きなものを失っている。奪われたのではなく、薄く時間をかけて削られていったものだから、返してと詰め寄る相手もいない。この小説にはそんな、若い頃はできるだけ忘れようとしてきた、どれもすこし見覚えのある光景が描かれていた。読み終えて、次なる本を探した。苦境に立たされても、希望を持って自分を保つ物語を見つけては、ジヨンに思いを馳せている」――74年生まれ、徳永圭子(丸善 博多店 書店員)

男性も、いや男性にこそ読んでほしい

 「たった192ページのこの小説は、とてつもなく重たい石である。散りばめられた言葉が心の奥底にズシッとのしかかり、投じられて出来た波紋の広がりは、あらゆるボーダーを乗り越える。刻まれているのはたった一人の人生だけでない。切実過ぎるエピソードは他人事ではなく、全身を覆い尽くすような圧倒的な普遍性を持っている。強烈な存在感を放つこの‘石’は読む者の‘意思’となって世界中に広がり、この社会の価値観を変え続けるはずだ!」――69年生まれ、内田剛(書店員)
 「一瞬、爆発のように売れて、すぐに落ち着く本がますます増えている昨今、発売から一年以上たっても、これほど静かに売れ続けている作品は珍しい。淡々と人生の年月が描かれるがゆえ、その中に、あたりまえのように理不尽が存在することが、真に迫って感じられる。誰もがSNSやブログで発信でき、そこに多くの理不尽を見てとれる世の中の、大きな基のひとつになった作品だと思う」――69年生まれ、内田俊明(八重洲ブックセンター 営業部 マネジャー)

著者から日本の書店員へのメッセージ

 「もしかしたらこの小説は、もっと広い世界に触れたいという気持ちから始まったのかもしれません。個人の考えにも社会通念にも慣性によって動く性質があり、境界を越えることは意外にたやすくありません。けれども今、私たちは境界を押しのけ、境界を越えて、互いに出会っています。日本の読者が韓国の女性の生き方を書いた本を読んで日本の女性の人生について語り、その声をまた韓国の読者たちが聞いています。キム・ジヨン氏のように、私のように、この本を読むことが読者の皆さんにとって世界が広がる経験であれば嬉しいです。

 平凡な韓国女性の物語を皆さんが読んでくださり、選んでくださり、私をさらに多くの読者と出会わせてくださったことに感謝します」 ――チョ・ナムジュ(斎藤真理子訳)

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