ブックディレクター・幅允孝さんおすすめの1冊『感性は感動しない』
記事:世界思想社

記事:世界思想社
「芸術にとって『感動』は諸悪の根源だ」という刺激的な言葉ではじまるエッセイ集『感性は感動しない』。
美術批評家の椹木野衣さんの最新刊は、読んでいてうなずく部分がたくさんありました。
アートの見方や批評の方法、そして自身がなぜその道を歩んだのかを語る、著者初の随想録。他の著作と比べても、じつに読みやすい1冊です。
ちなみに冒頭の言葉は、表題作である最初のエッセイ内にあるのもの。
岡本太郎の「感性をみがくという言葉はおかしい」という引用から始まり(岡本はみがくのではなく瞬時にわき起こると言っています)、「芸術における感性とは、あくまで見る側の心の自由にある」と説く椹木節に納得です。
作家の来歴や所属グループ、値段など作品の外側にあるものに邪魔されず、自身の目で作品を見届けること。そして、幸運にも心動かされること。それを「感動」という言葉で一括りにしては、自身のどこが駆動したのか細かく認識できません。なぜなら、芸術に触れるということは「感性を通じて自身の中を覗き込んでいる」ことだから。
僕も「本の読み方の自由」についてよく考えているので、業種は違えど共通する問題意識を感じました。
また、教育の現場における「本の差し出し方」に関しても、美術と恋心に関する言葉が大きなヒントになりました。
Eureka!
まあ、というわけで一人読後に興奮しているのですが、騙されたと思って最初のエッセイ「感性は感動しない」を立ち読みしてみてください。きっと数分後には、レジまで向かってしまうはずです。
本好きとしては椹木さんの読書論も興味深かったです。