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ビジュアルで楽しく読み解く心理学 『ひと目でわかる 心のしくみとはたらき図鑑』

記事:創元社

『ひと目でわかる 心のしくみとはたらき図鑑』(創元社)
『ひと目でわかる 心のしくみとはたらき図鑑』(創元社)

 「心理学」というと、「専門的で難しそう」というイメージをもつ人が多いかもしれません。しかし「心の問題で悩んだことがない」という人はほとんどいないのではないでしょうか。心理学は私たちの人生に密接に結びついたものでありながら、体系立てて知る機会というのはなかなかありません。

 『ひと目でわかる 心のしくみとはたらき図鑑』では、そんな心理学にまつわる広大な領域を網羅し、豊富なイラストを交えながらわかりやすく解説していきます。ここでは、目次にしたがってその内容の一部をご紹介したいと思います。

第1章 心理学とは何か?

 第1章では、そもそも「心理学」とはどのような学問で、どのような歴史をもっているのかといった基礎知識をはじめ、「脳や感情はどのようにはたらくのか」といった科学的知識についても解説されていて、「心のしくみとはたらき」を概観することができます。

 たとえば、著名な精神科医ジークムント・フロイトが説いた「精神分析理論」のページは以下のようになっています。

 精神分析理論では、人の行動や人格は心の葛藤によって決定づけられ、その葛藤は意識の下層にある無意識のレベルで起こるとされています。この「意識/無意識」の分類については広く知られていますが、「無意識」がさらに超自我、自我、イドの三つに分けられることについてはそれほど知られていないのではないでしょうか。

 「超自我」は正しい行いを求める規範的な心です。それと対照をなす「イド」は目先の満足を求める衝動的な心で、この二つの間でバランスをとろうとするのが「自我」だとされています。フロイトは、これら三つの要素が衝突することで心の葛藤が生まれるとし、心の健全な発達のためには、これらが互いに調整を図ることで葛藤を解決することが必要だと考えました。

第2章 さまざまな精神疾患

 続く第2章では、「うつ病」「適応障害」「自閉スペクトラム症」「認知症」「過食性障害」といった、さまざまな精神疾患について個別に解説していきます。疾患の概要や診断法、治療法についての要点が簡潔にまとめられているので、漠然としたイメージでしか捉えていなかった疾患も理論的に理解することができます。

 たとえば「うつ病」について書かれたページを見てみると、「落ち込みや心配を感じ、日常の活動に喜びを見いだせない状態が2週間以上」続けばうつ病と診断される可能性があること、治療法としては心理療法や薬物療法があることなどがわかります。

 そして、金銭問題や人間関係といった外的な要因から、子ども時代の経験や健康問題といった内的な要因まで、その原因がいかに多様で、普遍的なものなのかということについても示されています。第2章の冒頭でも「4人に1人が一生のうちに一度は精神疾患や神経障害を患う」と書かれているように、精神疾患は誰にでも起こる可能性があるのです。

第3章 心を癒すさまざまな治療法

 個別の疾患について学んだあとは、治療の現場で用いられているさまざまな考え方や技法を紹介していきます。それぞれの治療の枠組みの違いがよくわかり、一人ひとりの疾患に合った治療法を探すことができます。

 主要な心理療法である「認知療法・行動療法」のページでは、どのような認知や行動が治療の焦点となるのか、AさんとBさんという2人の人物を通してわかりやすく説明されています。

 「友人のパーティーに招待されなかった」という事象に対し、Aさんは「招待状が紛失したのかもしれない」「仕事関係のパーティーなのかもしれない」などの可能性を考え、「相手に理由を尋ねる」といった理性的な行動をとります。

 いっぽうBさんは、「個人的に嫌われている」「自分が社交的ではないから除外された」などと思い込み、「友人を避ける」「怒って詰め寄る」といった不合理な行動をとります。

 Bさんのこの考え方、あるいは行動こそ、「認知療法・行動療法」の治療の焦点であり、そこを改善すればおのずともう一方の行動や思考も変わっていくことが期待されるのです。

第4章 実生活の中の心理学

 最終章では、恋愛や仕事など、社会のあらゆる側面において心理学がどのように機能し得るかについて説明されています。

 上で解説されているマズローの欲求階層説は、学校の授業などを通して知っている人も多いのではないでしょうか。「人間の行動は一連の欲求を動機としており、低次の欲求が満たされると高次の欲求が生まれる」という理論で、最も高次の欲求は「自己実現」だとされています。

 「自己実現」は現在さまざまな場面で広く使われる言葉ですが、マズローは、実際に自己実現を達成している人は全体のわずか1%に過ぎないとしています。そして自己実現を阻む要素として「失業」「病気」「親しい相手との死別」などを挙げ、自己実現に近づくためには「自分と他者を比べないこと」「自分の強みと弱みを理解し、受け入れること」「自分を信じて人生の問題に対処できるようになること」などが必要だと述べています。

 このように見てみると、心理学がいかに多様で、私たちの日常に深く根ざした学問なのかということに気づかされます。心理学的な知識は、知らずとも問題なく生活は送れます。しかし少しでもその知識を身につけておけば、人生のなかで困難に直面したとき、あるいは他の人が困難の最中にいるとき、考え方や行動の選択肢が広がるかもしれません。本書を通してその一歩を踏み出してみませんか。

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