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ステイホーム中でも「運動」が重要なワケ 『スタンフォード式 人生を変える運動の科学』

記事:大和書房

『スタンフォード式 人生を変える運動の科学』(大和書房)
『スタンフォード式 人生を変える運動の科学』(大和書房)

運動で「人生の満足度」が高まる

 世界的に見ても、体をよく動かす人たちのほうが、幸福感や人生に対する満足度が高い。それはウォーキング、ランニング、水泳、ダンス、サイクリング、競技スポーツ、ウェイトリフティング、ヨガなど、どんな運動をしている人にも当てはまる。

 また定期的に運動している人たちは、目的意識が強く、日常生活において感謝や愛情や希望を実感することが多い。仲間との深いつながりを感じるため、孤独や気分の落ち込みを感じにくいこともわかっている。このような効果は、年齢や、社会経済的な地位や、文化のちがいにかかわらず、共通して見られる。

 ここで重要なのは、運動がもたらす心理的・社会的な効果は、身体能力や健康状態とは関係がないことだ。慢性の痛みや身体障害、心や体の深刻な病気を抱えている人びとや、ホスピスケアの患者たちにも、同じような効果が表れている。希望、やりがい、仲間同士の親睦などの深い喜びは、健康状態や体力ではなく、なによりも体を動かすことと関連しているからだ。

なぜ運動は人を幸福にするのか

 本書の中心的なテーマは、「運動は人間の幸福にいかに貢献するか」である。調べていくうちにまずわかったことのひとつは、「なぜ運動は人を幸福にするのか」についての一般的な説明は、あまりにも単純すぎることだ。

 運動がもたらす心理的な効果は、「幸福ホルモン」と呼ばれるエンドルフィンによる高揚感だけではない。運動によって、ほかにも多くの脳内化学物質が活性化するため、エネルギーが湧き、不安が和らぎ、人との絆が深まるなど、さまざまな効果が得られる。脳の炎症を抑える効果もあるため、長期的にはうつ病や不安症や孤独を防ぐことにもつながる。

 さらに、定期的な運動は脳の構造に物理的な変化をもたらし、喜びや、人とのつながりを感じやすくなる。こうした神経系の変化は、うつ病や依存症の最先端治療で確認された効果に匹敵するほどだ。運動すると気分が爽快になるのは、そのための仕組みが筋肉組織に備わっているためでもある。体を動かすと、脳のストレス耐性を高めるホルモンが、筋肉から血中へ分泌されるのだ。このホルモンは、「希望の分子」とも呼ばれている。

「体を動かすこと」への報酬

 こうした科学的根拠(エビデンス)を見れば、人体のあらゆる生理機能は、体を動かすことに報酬を与える仕組みになっているとしか思えない。

 神経科学者のダニエル・ウォルパートが述べているとおり、「人間の脳の最大の目的は、 体を動かすことだ。動くことこそ、我々が世のなかとかかわるための唯一の手段なのだ」。

 だからこそ私たちの体は、動くことによってさまざまな報酬が得られるようにできている。動くことで報酬が得られるのは、もっとも根本的なレベルで、脳と体があなたに活動をうながすための方法なのだ。

 あなたが積極的に動き出すと、筋肉はあなたに希望をもたらし、 脳は喜びを生み出す。そして体のあらゆる生理機能の働きによって、あなたが生きるために必要なエネルギーや、目的意識や、勇気がもたらされる。

 さらに、動くことで報酬が得られるのには、もっと複雑な理由もある。それは人間の幸福の心理にかかわることだ。人間は生きるために役立つ活動や、経験や、精神状態に喜びを感じるようにできている。それには食事や睡眠といった基本的なことだけでなく、人間ならではの心理的な特徴も含まれる。

 たとえば、私たちは助け合うことに喜びを感じ、チームワークにやりがいを覚える。進歩することに張り合いを感じ、なにかに貢献することを誇りに思う。私たちは人びとや場所やコミュニティに愛着を感じ、大事にすることで、心の温もりを感じる。

幸福を感じるための本能

 こうした幸福を感じるための習慣は、わざわざ身に付けるまでもなく、人間の本能としてDNAに組み込まれ、代々受け継がれてきた。呼吸をしたり、食べ物を消化したり、筋肉に血液を送り込んだりするのと同様に、生きるために不可欠な能力として、私たち一人ひとりに備わっている。

 運動や競技であれ、冒険やお祭りであれ、体を動かすと幸福感が増すのは、このような 本能が刺激されるからだ。体を動かすことは、自己表現や、人とつながること、なにかを習得することなど、人間のもっとも基本的な深い喜びと結びついている。私たちは体を動かしているときこそ、音楽と一体になる喜びや、スピードや、しなやかさや、力強さにあふれた動きがもたらす快感など、本能的な喜びを味わうことができる。

 どの文化でも、舞踊などの体を動かす儀式を祭典や伝統行事の中心に据えている理由は そこにある。哲学者のダグ・アンダーソンが述べているように、「運動には、私たちの もっとも人間らしい部分を引き出す効力があるのだ」。

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