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人の話を本当に「聞く」ために 東山紘久『プロカウンセラーの聞く技術』

記事:創元社

『プロカウンセラーの聞く技術』(創元社)
『プロカウンセラーの聞く技術』(創元社)

 そもそも、どうして人の話を「聞く」ことが重要なのでしょうか? この疑問に対して、本書の中で著者は以下のように述べています。

 われわれは、真実の人間関係、嘘のない人間関係、信頼のできる人間関係をもちたいとつねづね思っています。そのためには、相手の話を聞くことが必要になります。「聞く」ということは、ただ漠然と耳に入れることではありません。聞くことは理解することなのです。音や言葉を聞くことは簡単ですが、相手を理解することはむずかしいことです。また、しゃべることは、対人恐怖症でないかぎり、案外楽にできるのですが、聞くことは苦行になることさえあります。しかし相手理解は聞くことからしか生まれないのです。

 相手のことをより理解し、より深い関係を築くためには「聞く」ことが不可欠なのです。以下では、本書の中で述べられている「聞く技術」の一部を、ピックアップしてご紹介します。

相づちを打つ

 カウンセラー以外にも、「人の話を聞く」職業は存在します。たとえばテレビ番組のインタビュアーなどがそうです。カウンセラーもインタビュアーも、「人の話を聞く」という点では同じですが、それぞれ聞き方の姿勢は異なっており、なかでもいちばん違うのは「相づち」だといいます。プロのカウンセラーは、かなりの頻度で相づちを打つのです。そしてこの相づちこそが、聞き上手になるための第一歩なのです。

 相づちは、相手の発言の合間に、適切なタイミングで入れなければなりません。つまり、ちゃんと話を聞いていないと相づちは打てないのです。逆に言うと、相づちは「話を聞いている」ということを相手に伝える最良のコミュニケーション手段であり、話を聞くためには身につけておかねばならない基本技術です。

 そして相づちというのは、基本的には相手に対して肯定的です。「違う、違う」といった否定の言葉は相づちとしてはあまり適切ではなく、通常は「そうなんだ」「なるほど」といった言葉がよく使われます。そしてプロのカウンセラーは、相づちの種類が豊富です。「なるほど」という言葉ひとつをとっても、「なるほど」「なあるほど」「なるほどなるほど」「なるほどねえ」など、何種類も使い分けているのです。

 また、相づちにおける高等技術として「くり返し」があります。相手の言ったことを、相手の言ったとおりにくり返すのです。これまた単純なことようですが、実際にやってみると意外と難しいことがわかるでしょう。「こういうことがあって、そんなふうに言われたから、こう思ったんだね」というように、話の内容をそのままダラダラとくり返していては、相手はバカにされたように感じてしまいます。くり返しの相づちは、「明快に」「短く」「要点をつかんで」「相手の使った言葉で」行うのがポイントです。相手の話における「キーワード」を判断して、「へえー、偶然に、不思議なことが……」というように、キーワードの部分だけをくり返すのです。このようなくり返しの相づちを打つと、話し手は「自分の話を理解してくれている」と感じます。

自分のことは話さない

 くり返しますが、ただただ「人の話を聞く」というのは案外難しいものです。人は他人の話を聞いていると、「私はこう思う」「私のときはこうだった」など、「自分の話」をしたくなるものだからです。しかし、プロのカウンセラーは自分のことを話しません。自分の話をすると、相手の話す時間をとることになってしまうからです。

 なかには「相手のために」自分の話をしたい、と思う方もいるでしょう。自分の失敗談や経験談などを話すことが、相手の役に立つのだと。しかし経験や学習というのは、実際に自分で体験しないとわからないことのほうが多いものです。たとえそれが善意からだったとしても、自分の体験談を話すことの効果はそれほど大きいとは言えません。

 ただ、話し手のほうから「あなたはどう思う?」と尋ねられることもあるでしょう。聞き役を続けていこうと思うならば、そのときに「自分の立場」から答えるのではなく「相手の立場」に立って答えることが重要になってきます。そして「どう思う?」という質問には、ほとんどの場合答える必要すらないのです。

 なぜなら、相手は「あなたの考え」よりも「自分への同意」を求めている場合が多いからです。このようなときは、「そうねえ……」などとちょっと間を置くだけでよいのです。すると、相手のほうから「腹が立つと思わない?」など自分の気持ちを話しはじめるので、「思う、思う」などと相づちを打つことでふたたび話が展開していきます。

 しかし時には、答えなければならない質問というのもあります。「おたくは何人家族?」「仕事は順調?」などです。このような質問には答える必要がありますが、このとき重要なのは「聞かれたことしか話さない」「同じ質問を投げ返す」ことです。先の質問に対しては、「うちは四人家族」「なんとかやってるけど、あなたのほうは?」などと返すことで、必要以上に話を広げず、聞き役を続けることができるのです。

 このように、話を聞くコツは単純ですが簡単ではありません。だからこそ誰にでもできることではなく、プロのカウンセラーのような職業が存在するのです。日常生活においてはカウンセラーほど技術を極める必要はありませんが、人の話を上手に聞けるようになると、相手をより理解できるようになり、人間関係がより豊かになっていきます。また、人は「自分の話に耳を傾けてくれる人の言うことはよく聞く」ものなので、普段から人の話を聞いていると、誰かに自分の話を聞いてほしいときや何かをお願いしたいときにも、その蓄積が活きてくるのです。『プロカウンセラーの聞く技術』を読んで、聞き上手を目指してみませんか?

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