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成功への旅のガイドブック『私はやる』

記事:創元社

『私はやる』(創元社)
『私はやる』(創元社)

成功は目的地ではない!?

 『私はやる』では「成功」は「到着地」ではなく、「旅」であるとはじめに書かれてある。この時点で、私は「ん?」と思った。成功にたいして、困難や犠牲を超えた先にある「山の頂にあるご褒美」というイメージを持っていたからだ。テストで高得点をとろうと思えば、遊びたい時間を我慢して勉強をしなければならないし、部活で優勝したければ相当練習しなければいけない。これらの経験から、苦労してたどりつくゴールだと思い込んでいる気がする。現に、著者が1340人の男女に「成功は到着地であるか、それとも旅であるか」という質問をしたところ、926人が「到着地だ」と答えた。

 著者は成功は旅だと、以下のたとえをもって説明している。

     ◇     ◇

 もしあなたが、たとえばハワイへの船旅をするとしたら、あなたの楽しみはオアフ島に到着した後だけに与えられるものだろうか。決してそんなことはないはずだ。

 まず旅行をしようと決めた瞬間に喜びが湧いてくるだろう。案内のパンフレットをもらいに旅行案内所に行きながらも、旅への期待でわくわくするだろう。旅行鞄に衣類を詰めているときでも、それを着て甲板を歩いているところや、到着した後でどこかのお祭りに出かけた時のことを考えて、ぞくぞくした気分になるはずである。

 出発の日には、あなたは早々と船に着いて、気の置けない友人たちと船室に降りていく。

 航海中は、毎日いろいろな面白い遊びがたくさんあって、それがハワイに着くまで続くのである。

 あなたが目的地に着いた時にあなたの楽しみは終わるだろうか。とんでもないことだ。あなたを幸福にしてくれるのは、ハワイであなたがすることだけでなく、帰り道にも楽しみはたくさんある。

     ◇     ◇

 確かに、改めてちゃんと思い返すと、私は部活にいたっては苦しんだ覚えがなく、むしろ楽しんでいたと思う。もちろん大会で優勝するために必死に練習をした。腹筋背筋を何十回もし、体力をつけるために外周もした。それと同時に、自分の体をアップデートしていく楽しさと、上達していく充実感を味わってもいた。とにかく、部活が好きだったのだ。このあたりが著者の言う、成功は目的地ではなく旅である、とするところなのだろう。そう思うと、誰にでも少しは心あたりがあるのでは。些細なことでも、達成するのに苦しさではなく楽しさを覚えていたことが。そしてそれは、かなり高い確率で達成されたのではないだろうか。

「私はできる」と「私はやる」は、両方必要

 著者は、自分がしたいと心に決めたことは、どんなことでもすることができると断言する、と言う。ただし、そこに「やるぞ」という決意があるかどうかが、決定的に重要な問題だとする。(このあたり、ものすごく、心当たりがあります……〈やれないほうに。笑〉)

     ◇     ◇

 わかりやすく説明すれば、「私はできる」という自覚を持つことは、動機づける力であって、いわば鉄砲に弾丸をこめることである。「私はやる」と決意することは、引き金を引くことであって、いわば鉄砲を発射することである。両方の力が必要なのだ。そのどちらかが一つでも欠けると、鉄砲は役立たずになってしまうだろう。

     ◇     ◇

 そう。わかっちゃいるけど……、というやつですね。ここで「やる」と決めた人だけが、成功への充実した旅ができる。実際の旅だって「行くぞ!」と本気で決めない限り、永遠に出かける日はやってこない。

 またここで振り返ってみると、大学の卒業旅行で私は「イタリアに行きたい!」と思っていた。確か一緒に行く友人と揉めることもなく、すんなりイタリアに行き先が決まった。きっとこの時の私の熱意たるや、相当なものだったのだろう。行くぞと決めたら、次は行動に出る。その時の私は、旅先で思いっきり遊びたいという思いでいっぱいだった。往復の旅費だけでも高額なうえに、向こうで惜しみなく楽しむためのお金も必要。そうとわかれば「よし、バイトだ!!」と猛烈に働き、わずかな期間で自分でもびっくりするほどのお金を貯めた。人は決意すると、行動に移せるものなのだ。なんだ、私けっこうやれてた過去があるじゃん、と、今なんだか嬉しい。そしてここでも苦労なくやれていたのは、先の部活同様、「自分でやりたいと思ったこと」なのだと気づく。

成功の解剖学

 著者は成功の重要な要素は次の三つだと言う。

     ◇     ◇

一 私は成功者になることができると知ること。
二 私は成功者になるぞと決意すること。
三 あなたとあなたの目標の間に横たわっている障害を理解し、その理解に基づいた行動計画を立てること。

     ◇     ◇

 この言葉を見ると、中学校の期末テストを前に担任の先生が口酸っぱく言っていた言葉を思い出す。「すべてはスケジュール!」と。テスト勉強に入る前に、勉強のスケジュールを立てなさい、それがすべてを左右する、とかなんとかをもっとフランクな表現で言ってくれていたと思う。

 この本においても、旅立つ前の「準備」の重要性が説かれている。

     ◇     ◇

 建築家のことを引き合いに出すならば、彼はどのように建てるかという細部にわたった計画なしでは、決して建築に取りかからないだろう。彼は前もって、建築に必要な細部の計画を決めてから取りかかるだろう。

     ◇     ◇

 私もこの前見た。通りすがりに(コロナ以前ですよ)、工事中の建築物にでかでかと「全ては準備で決まる」と書いた垂れ幕が掲げられていたのを。

 著者はまず、実現したい目標をリストアップし、次に、それを手にした自分をありありと思い浮かべることを勧める。なんと2日ほどかけて想像しろという。これが旅立つための地図作りで、これがないと旅に出られない。私は実際の旅でも行き当たりばったりのタイプなので、一緒に行く友人がプランをつくってくれていることが多い(土下座)。まぁ、たまの旅はそれでいいでしょう。でも人生は一度きり。そしてその人生の舵取りはほかならぬ自分なのだと思うと、この準備の重要性がわかってくる。

 この本では旅を12のステーションに区切り、一つひとつの駅で何をしていくのかを丁寧に説いている。この記事で紹介したのはほんの入り口。先に進もうという方は、ぜひ、本書を手に取ってステーションへと進んでください。私自身この記事を書いていて、改めて気づいたことがある。その旅をとことん楽しむためには、その旅が「自分で選んだものである」ことが、もっとも重要だと。自分にとっての成功=旅はなんなのか、改めて考えるきっかけにもなれば幸いです。私も目下、旅の途中です。

(創元社 古賀)

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