海の中に、命きらめく、もう一つの世界 『世界で一番美しい海のいきもの図鑑』
記事:創元社
記事:創元社
海といえば、大きい、青いというイメージを持つ人がほとんどだと思います。僕自身もそうですが、眺めているだけでも好きという人も多いでしょう。目に入るのは水面と空。シンプルさが心を落ち着けてくれるような気もします。身近なような気もしますが、我々が住む陸上とは別世界だから、やはり遠い世界ともいえます。だから海の中をのぞいたことのない方に、海の魅力が一目でわかるような本を作りたいと思いました。
この本は、海の中で一番素直にみたままを撮影した青だけの写真と、背景を全て省略し黒くした、生物の色と形のみの写真を中心に構成しています。各章のスタートの青い写真は、海中の太陽の光だけで撮影したものです。人の目に映る自然な海の風景です。撮影時間や海底の反射、季節による変化もあれば、撮影地、プランクトンの量によっても青の色合いが変わります。北の緑に近い青から南の海の透き通るような青まで、七色の海があります。
黒い背景の生物の写真は、カメラマンがどう撮影したかよりも、ありのままの生物のすごさを見てもらいたいと思ったものです。背景を捨てることによって、生物の色と形が、誰が語るより雄弁にそのすごさを語ってくれるのではないかと思うのです。黒い背景ですが、ほとんどは昼間に撮影したものです。生物は本来の活動時間でないと色が変わるものが多いからです。ほぼ全てを海中で撮影しています。いきいきとした色や、一瞬の動きを撮影するためには、本来の場所で撮影しなければならないからです。背景の黒にも微妙な色の差があるので楽しんでください。
広大な海は、地球表面積の2/3をしめます。僕に言わせれば、地球には2つの世界があるわけです。海と陸、水面の上と下、空気の世界と水の世界です。水面という不思議な境界を超えれば、陸とは違うルールの海の世界です。海は大きな水たまりではなく、命の故郷であり、宝庫であり、多分、一番容易に野生の動物と会える場所でもあります。水中マスクをつけて、水面に浮かぶだけで、誰でも別の世界をのぞくことができます。
海だからこそ可能だった太古から生き残る生物、ヒトデなどは5億年の歴史があるそうです。10センチのクラゲが何十メートルも触手を伸ばすことが可能なのが水の中です。浮力が支えることで、巨大なクジラのような生物がいます。地球の歴史の中で最大の生物がシロナガスクジラ。それより小さいマッコウクジラでも50トンにもなります。オスの大きな者で15メートルとも言われます。長さはバス2台分ですが、重さは50キロの人間なら1000人分です。そんな巨大な生物と眼が合うこともあります。ジェラッシークパーク以上ではないですか?
この本の中には、5ミリ、1グラムもない生物から、50トンの巨大なクジラまで、生物の種類の幅をできるだけ広く入れてあります。私たちが、母の中で、エラのある時期を過ごし、尾のある時期を経て人になる。全ての生き物がたった一つの細胞から始まり、全てが繋がって今があるということを、なんとなく感じるのです。食いつ食われつ生き、時には利用したり助け合ったりする、無数の生物のつながりこそが命と呼ぶべきものかもしれません。
忙しい時代の大量の情報の中で、1日の終わりに、静かに見てもらえる本を作りたいと思いました。海の中の静けさが好きだからかもしれません。お酒を飲みながら、音楽を聴きながら、ゆったりと1枚1枚めくってほしい。写真には小さな世界しか映らないけれど、広い海や宇宙にイメージが広がっていくような、大げさですが、そんなものを目指しました。そして生物の歴史、僕らの感覚では捉えきれないほどの長い時間を想像してください。何億年と言われても掴みようのない時間なのですが。