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鯨・ウナギ・「後進国」 日本の漁業を考える3冊 紀伊國屋書店員さんおすすめの本

「近代捕鯨」は日本の伝統か

 捕鯨はしばしば日本と海外諸国との摩擦が話題にのぼる。「捕鯨は日本の伝統であり文化だ」といった主張がよくなされてきたが、そもそも多くの日本人は、捕鯨の歴史的背景について知る機会が少ないのではないだろうか。

 『日本捕鯨史【概説】』(古小烏舎)は、およそ6000年前、縄文時代までさかのぼるという日本列島における捕鯨の歴史を解説する。捕鯨はただ「食糧(しょくりょう)」を得る手段というだけでなく、文化・経済・民俗的な広がりのある生産活動であったことがわかる。

 なかでも、戦国時代後期から主に伊勢や対馬など西日本で発達した専業捕鯨集団の「鯨組」は特に興味深い。「年寄・若者に限らず、熱心で役に立つ者を出世させるように」「贔屓(ひいき)で昇進をおこなうと、組が立ち行かなくなるので、支配人は勿論(もちろん)、上に立つ者は心得違いが無いよう心を配る事」といった実力重視の掟(おきて)は非常に合理的で、現代にも通じる考え方だと思える。

 本書は日本の捕鯨を三つの時代に大別する。各地域で鯨組などが人力で捕鯨を行った「古式捕鯨」、明治以降にノルウェー式砲殺法を採り入れて機動的かつ広範囲に捕獲した「近代捕鯨」、1988年に商業捕鯨が一時停止して以降の「管理捕鯨」(2019年7月に再開)だ。特に、古式捕鯨と、資本主義経済に従って企業が利益の最大化をめざした近代捕鯨との間には大きな断絶があり、これを無視して捕鯨を日本の「伝統」とひとくくりにすることはできないだろう。

 少なくとも、諸外国に対して「伝統」を理由に捕鯨存続を主張するのは大いに疑問である。捕鯨を継続するにしろ、撤退するにしろ、わたしたちが捕鯨のこれまでと現状を正しく理解することが不可欠ではないだろうか。

ウナギ業界に蔓延する違法行為

 ウナギの減少および絶滅危惧が叫ばれるようになってずいぶん経つ。しかし、丑(うし)の日ともなればうなぎ屋には行列ができ、コンビニやスーパーで大量消費・廃棄されるのは変わらない。問題意識は徐々に高まりつつあるが、行動にはなかなか結びついていない。

 『結局、ウナギは食べていいのか問題』(岩波書店)は、現在のウナギの状況から消費者のとるべき行動まで様々な疑問に簡潔に答えてくれる。一番の驚きは三章「ウナギと違法行為」だ。本章によれば、国内に養殖されるニホンウナギのおよそ半分から7割程度までもが違法に流通したシラスウナギから育てられるという。しかも暴力団のような反社会的組織だけでなく、一般の漁師、流通業者、養殖業者なども密漁・密売に関わっているケースも少なくないというのだ。

 こうした事実を発言した際、著者はウナギ養殖業の経営者や産業界・行政から発言の自粛を求められることもあったという。しかし、ウナギの保全と持続的利用には科学的知見が必要であり、違法行為が正確な漁獲実態の把握を妨げているのだと著者は主張する。われわれ消費者はこのような状況にあまりに無知ではないだろうか。ウナギや他の海産物も野菜同様、どこでどのようにして採られた(生産された)くらいは意識して購入すべきだろう。

 ウナギは食べていいのか。著者は実のところ、その結論を明示していない。食べる、食べないの判断は消費者が情報を得たうえでそれぞれの価値観に基づいて判断するべきだからだという。本書を読んでぜひ考えてほしい。

「日本は『漁業後進国』」という意識を

 ウナギやマグロなど個別の漁獲量だけでなく、日本の漁業が衰退傾向にあるのは周知の事実だ。日本の総漁獲量は1980年代のピークから3分の1程度まで減少している。一方で、世界の水産資源は1960年代から右肩上がりだ。日本の漁獲量減少は環境の変化や近隣諸国の乱獲に原因が求められることが多い。

 しかし『日本の水産資源管理』(慶応義塾大学出版会)は、それらの外的要因は要因の一つではあるが、真の原因とはしない。問題の原因は、適切で科学的な水産資源管理が行われていないからだという。ノルウェーなどの「漁業先進国」が適切な水産管理のもと持続的な漁業を営んでいることを様々なデータと実例を挙げて解説する。比較すると、日本の漁業は、科学的根拠に基づく漁獲枠の設定やその適切な配分などの点で、まだまだ課題が多いことがわかる。

 国際的評価でも日本のこの分野での評価が低いことからも、「漁業大国」といわれた日本は実は「漁業後進国」といえるのではないか。何よりも問題なのは、多くの日本人がこの事実を知らないことだ。魚が身近にある日本だからこそ、もっと関心をもって考えるべきだろう。