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石斧で太古の丸木舟と小屋をつくる。「縄文大工」の手仕事に迫る

記事:平凡社

「縄文大工」の雨宮国広さん(撮影=的野弘路)
「縄文大工」の雨宮国広さん(撮影=的野弘路)

「縄文大工」ってなに?

 雨宮さんは高校卒業後、山梨で丸太の皮むきのアルバイトをしていたが、その経験が後に大工になることにつながったという。

 「チェーンソーで豪快に木を切ったら、どんなに気持ちがいいだろう」

 若いころはそんな風に思っていた雨宮さん。ところがアルバイトで毎日木を切っているうちに、「森は有限である」と感じ、さらに機械に頼ったのものづくりにも疑問を持つようになる。その後、宮大工を経て、ついに石斧などを使ってものづくりをする「縄文」大工を開業した。

 「原始人から学ぶものなど何もない」と普通は思う。
 しかし私は、「原始時代の道具」からたくさんのことを学ばせてもらっている「縄文大工」なのだ。簡単に説明すると、「石斧を使って暮らしに必要なものをつくる職人」だ。(中略)
 実は私、「自分の長所は馬鹿なところだ」と思っている。世の中、利口な人間ばかりいたら、面白くもなんともないだろう。「馬鹿なりに、物事を考え、実践し、生きること」で世の中に面白さが生まれるのだ。
 確かに馬鹿な私は、利口に立ち回れない分、「生きづらい」。しかし「生きづらい世を生きる」ことで、現代社会の本質が見えてくるのだ。
(平凡社新書『ぼくは縄文大工 石斧でつくる丸木舟と小屋』「はじめに」より引用)

石斧で丸木舟の内部を削っていく(撮影=的野弘路)
石斧で丸木舟の内部を削っていく(撮影=的野弘路)

 縄文大工の仕事は、残念ながら生計が立つほどには至っていないそう。それでも人間の思い通りにならないという「手道具のよさ」に、充実感を覚えている。

 雨宮さんはその暮らしで得た知見をもとに、縄文小屋の復元や、「日本人の祖先がどこからきたか」を検証する国立科学博物館のプロジェクトの一環として、台湾から与那国島まで航海するための丸木舟を制作し、大きな話題を呼んだ。

 仕事に使われる手道具は多種多様だ。鹿の角や貝の斧、木のくわや木槌なんかもある。

手作りの石斧や道具たち(撮影=的野弘路)
手作りの石斧や道具たち(撮影=的野弘路)

 現代社会の暮らしには、ハイスピードで効率よく仕事をこなさなければ、利益が生まれず暮らし向きがよくならないという殺伐とした雰囲気があるが、石斧を手にすると穏やかな心持ちになる。「時は金なり」の束縛からの解放感は、たまらなく刺激的なのだ。人間本来の生き方は、ここにあると確信してしまうほどだ。解放された心は、とても敏感に自然を感じ取る。
 「コン、コン、コン」と響き渡る石斧の音は、すぐに森の静寂に吸い込まれていく。
 同時に、風の声、虫の声、小川のせせらぎがいつになく聞こえてくる。足元のアリ達の足音まで聞こえてくるかのように、心が研ぎ澄まされていくのである。

 原始の道具をたどれば、現代人が失ったものが見えてくるのかもしれない。

(文/濱下かな子 平凡社)

~『ぼくは縄文大工 石斧でつくる丸木舟と小屋』目次

第一章 縄文大工になったわけ
大工の道を歩み出した修業時代/匠の世界に求めたもの/雨宮大工の開業

第二章 能登に縄文小屋を建てる
石斧との出会い/石斧をつくる/縄文の遺物が語る住まいを求めて/縄文小屋を設計する/石器でつくる創造的住まい/たかが縄、されど恩人/「縄文小屋づくり」から見えたもの/古民家に学ぶ自然素材の利用法/森の寿命と環境破壊

第三章 三万年前の丸木舟で大航海
「原始人の石斧」で舟づくり/丸木舟は旧石器時代に存在するか/高性能な丸木舟をつくる道具とは?/ご神木の命をいただいて/杉の女神が大変身/丸木舟発進!/現代人がつくった三万年前の舟/龍になった「丸木舟」

第四章 縄文暮らしから生まれた哲学
「三畳の小屋」暮らし/囲炉裏レシピ/囲炉裏の火が語りかけてくるもの/黒曜石の切れ味/髭を剃らないエコ活動/住みかの本質は動物が知っている/〝縄文式健康法〟/ギネス級の〝うんち〟/石斧の素晴らしさ/持続可能な暮らしのための道具

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