博物画の楽しみを知る “博物学黄金時代”に出版された、美しく貴重な図版たち
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
もしも世界に数冊しかない貴重書を入手できたとしたら、どのように扱うだろうか。
熱心なコレクターであれば、書斎の最も高価な書棚に配架して、一年に何度かはページを捲り陶酔することもあるかもしれないが、それほど熱心なコレクターは恐らくかなり限られることだろう。
まして図書館の書庫等に収められた場合は、ほとんどその存在自体が知られないことも多いのではないだろうか。
本図譜集に収められている稀覯書(きこうしょ)は、幸いそういった道をたどらなかった。
(前略)生物への興味と、戦前の博物学者の活動への関心が、一つにつながったことが、約200年に及ぶ博物学黄金時代にのめり込む動機となった。
なかでも力を入れたのが、時代ごとに集積された分類学的成果を端的に伺える図鑑の収集であった。この作業は、歳を重ねる間に江戸時代へ広がり、また西洋の博物探検航海がもたらした採集報告に及ぶことになった。(中略)
こうして半生を捧げたわたしの収集成果が、このたび縁あって武蔵野美術大学図書館に架蔵されることになり、そのデジタル画像までも公開される運びになったことは、望外の喜びというほかない。博物学研究の基本資料として、また美術史の知られざる一分野の基礎文献として、若い人々に縦横に活用されんことを切に願うばかりである。(荒俣 宏氏「序文」より)
本書掲載の図譜のほとんどは、博物図の収集家として著名な荒俣宏氏の収集成果の中から、「多くの研究者や学生等の目に触れてほしい」と、武蔵野美術大学図書館に架蔵されたものである。
武蔵野美術大学では、講義や教育現場のなかで学生に実物を触れさせるとともに、図譜をデジタルアーカイブ化し公開するというプロジェクトを立ち上げ、五回にわたる展覧会を開催した。
本書は武蔵野美術大学美術館・図書館における展覧会「博物図譜とデジタルアーカイブI ~V」図録が底本となって再編集されたもので、18世紀から20世紀前半にかけて、欧米で出版された多様な書物の中から選ばれた33種類の博物図譜が数ページずつ抜粋・収録され、また展覧会ごとに行われた荒俣宏先生による博物学への多様な見方、楽しみ方を誘う講義テキストもまとまって収録されています。
これは武蔵野美術大学造形研究センターが、荒俣宏氏旧蔵図書の本学図書館への収蔵を機に行った5年間にわたる「近代デザイン資料及び美術史料の総合的データベースの開発と資料公開」プロジェクトの一環として行われ、図譜資料のデジタルアーカイブ化、及び公開展示が元になっており、私はそのプロジェクトを統括しておりました。(後略)
(寺山祐策氏「はじめに」より)
今回の図譜集は、展覧会開催時に作成した図録を丹念に再編集し、展覧会ごとに行われた荒俣宏氏による博物学の見方や楽しみ方を誘う講義テキストも加筆修正し掲載したもの。
数百年前の探検家や研究者がどういった心持ちで図譜を作成したのかを、深い知識と子どものように純真な好奇心をもって語る荒俣氏の姿を想像しながら読んでいただきたい。
また、今回の図譜集では、デジタルアーカイブ・プロジェクトをもとにした大学資料の活用、デジタル化についても解説しており、単に図譜を楽しむだけでなく、図書館や博物館からの情報発信にも役立てていただけるのではないだろうか。
十八世紀から二十世紀初頭の貴重書から多数収録した図譜については、展覧会での図録作成時からあわせて二度の現物校正を行っている。
当時の高度な技術で描かれた図譜を再現すべく、美術印刷に強みのある山田写真製版所のスタッフにも同席してもらい、全ての図譜の色校正を行った。
編集作業終盤で初めて触れる現物は、数百年前に描かれたとは思えないほど鮮やかで密度の高いものであったが、本書の仕上がりは、それに迫るものとなっている。
※第60回全国カタログ展(2018年度,主催:日本印刷産業連合会)において経済産業大臣賞展・グランプリをW受賞。本書自体の図録としての価値も高く評価されました。
※この記事は2018年10月31日発行の『図書新聞』に掲載されたエッセイをもとに構成しています。