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植物たちの声なきSOSを聞く 『知っておきたい日本の絶滅危惧植物図鑑』

記事:創元社

112種の貴重な写真を収録。話題のSDGs・環境教育にも最適
112種の貴重な写真を収録。話題のSDGs・環境教育にも最適

絶滅危惧種の半分以上は植物

 絶滅危惧種とはその言葉通り、絶滅する可能性が高い生物種のことを指します。トキやコウノトリ、イリオモテヤマネコ、ツシマヤマネコ、アマミノクロウサギのようなほ乳類や鳥類を思い浮かべる方が多いと思います。これら動物に対し植物はあまり話題になりません。ところが種の数でみると環境省が公表する絶滅危惧種の半分以上は植物なのです。2020年時点で絶滅危惧種として3716種の生物が指定されており、そのうち植物は2030種で、ほ乳類は34種、鳥類98種、昆虫367種となっています。動物類は生きていくために植物を必要とするものも多く、絶滅危惧種を考えるときに植物の存在は大変重要なものなんです。

植物との付き合い

 高校生の頃に植物(というより花だったと思うが)に興味を持ち、園芸の勉強をしたいと思いました。大学で山に行く機会を得て野生の植物にも魅力を感じました。私の認識では植物と花とは微妙に、そして決定的に違いました。下宿の窓辺にスチール製の本棚を置き、様々な植物を並べて楽しんでました。本棚をどけると、畳の上に黒くなったキノコの残骸が出てきたこともありました。京都に大きな植物園があり、そこで働けたらという思いから京都府の職員になりました。退職までいろいろ変遷はあったものの一貫して現場で生きた植物と関わり続けることができました。たまに「学生の頃から成長せんなあ」と言われます。

ウケユリ/絶滅危惧ⅠA類/ユリ科ユリ属
ウケユリ/絶滅危惧ⅠA類/ユリ科ユリ属

キイジョウロウホトトギス/絶滅危惧Ⅱ類/ユリ科ホトトギス属
キイジョウロウホトトギス/絶滅危惧Ⅱ類/ユリ科ホトトギス属

 絶滅危惧種というものを意識するようになったのは今世紀に入ってからのように思います。DNAによる系統解析や個体識別、GPSの普及といったことで植物に対する見方も変わってきました。本書の共著者である京都大学の瀬戸口教授のお手伝いをするようになって、今まで自分が経験してきたことが絶滅危惧という切り口で発信できるようになった気がします。ただ、なんというか「絶滅危惧植物ありき」という使命感のようなものは私にはないのです。絶滅危惧にはこだわらず自分が気に入った植物を相手に様々なことに取り組もうと今までやってきました。

本書について

 園芸の月刊誌に絶滅危惧植物について連載をしたことがあり、京都府立植物園で自分が撮りためた写真をパネルにして展示していたところ、それを見た創元社の編集者の方から本にしませんかというお話をいただきました。2017年末を締め切りとして作業を始めたものの2019年までかかってしまい、2020年4月ようやく発刊にこぎつけました。関わってくださった方には大変ご迷惑をおかけしました。

クモイジガバチ/絶滅危惧ⅠA類/ラン科クモキリソウ属
クモイジガバチ/絶滅危惧ⅠA類/ラン科クモキリソウ属

サクライソウ/絶滅危惧ⅠB類/サクライソウ科サクライソウ属
サクライソウ/絶滅危惧ⅠB類/サクライソウ科サクライソウ属

 本書の基本的な構成は大きな写真1枚、小さな写真2枚とその解説を見開き2ページに収めています。ただ、種によって自由にレイアウトを変えることも認めてもらいました。結果としてパターンに沿って淡々とページが進むより面白いものになったのではと思っています。図鑑にしては掲載種数が少なく、大きな写真を使っているのも特徴です。大きな写真を使うことで植物の魅力が伝わりやすく、「世界で一番美しい図鑑」シリーズを手掛ける出版社だけに印刷もいいです。このことによってお世辞にもうまいとは言えない私の写真がそれなりにキレイに見えますよね?(見えないかなあ…)

足で稼いだ図鑑

 私の写真は植物愛好家(園芸家)が足で稼いだ写真です。同じものを写したのではプロにはかなわないので、まだ写真になってない植物を載せようという思いで様々な自生地に足を運びました。腕前は下手くそですから同じ植物の写真を撮りに何度も自生地に通いました。結果として、この本は入門書と銘打ちながらも内容は偏ったマニアックなものになってしまっているかもしれません。この時代にこの植物がこの場所にあったという記録集にすることも意識しました。

トラキチラン/絶滅危惧ⅠB類/ラン科トラキチラン属
トラキチラン/絶滅危惧ⅠB類/ラン科トラキチラン属

シラタマホシクサ/絶滅危惧Ⅱ類/ホシクサ科ホシクサ属
シラタマホシクサ/絶滅危惧Ⅱ類/ホシクサ科ホシクサ属

 植物には撮影対象以上の思い入れがあります。そのような気持ちが伝わればうれしいです。植物の写真を撮るとき、基礎的な技術は必要ですが機材が良くなっている昨今、どれだけキレイに撮ろうとするか、どれだけその植物の魅力を伝えようとするかの方が大切なんではないか、と思うことがあります。

人とのかかわり

 写真を撮影するにあたり、多くの方にご協力いただきました。自分一人では植物を見つけ出せないので各地で愛好家のお世話になりました。この図鑑で紹介できたのはそのような方と知り合いになれた地域に自生する植物が多く、これも内容が偏っている原因の一つです。

フジノカンアオイ/絶滅危惧Ⅱ類/ウマノスズクサ科カンアオイ属
フジノカンアオイ/絶滅危惧Ⅱ類/ウマノスズクサ科カンアオイ属

ホテイラン/絶滅危惧ⅠB類/ラン科ホテイラン属
ホテイラン/絶滅危惧ⅠB類/ラン科ホテイラン属

 ヘンコな人も多いですが(ゴメンなさい!)、皆さんには大変よくしていただきました。人を相手にするより植物の方がいいなという思いからこの仕事を始めたのですが、結果として人の力に頼ってしまい、人づきあいの大切さもつくづく実感しているところです。

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