道ばたの植物に目を向けると、いつもの街は草花にあふれていた 『街のスキマ植物図鑑』
記事:大和書房
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124。
これ、なんの数字だと思いますか?
これは、僕が新宿駅南口から1時間ほど歩き回って見つけた野生植物の数です。街路樹や花壇のお花といった人が植えたものを除き、勝手に生えてきた、いわゆる「雑草」と呼ばれるような植物だけを数えました。
日本でトップクラスの大都会にも、これだけたくさんの植物たちが息づいているのです。
たとえば、この写真を見てみてください。街のよくある場所で、ただ足もとを写しただけのものです。
なんてことない街中の景色の一部ですが、僕にはこれだけのものが見えてきます。
①セイヨウタンポポ
②ヒメムカシヨモギ
③スズメノカタビラ(細い穂のようなもの)
④カタバミ
⑤ノゲシ
⑥ツメクサの仲間
⑦タチチチコグサ
言われてみると、けっこうたくさんの植物が生えていますよね。
ありふれた景色でも、これだけたくさんの植物たちが生えているのです。同じ道を歩いていても、植物好きの人には、他の人とちょっと違うものが見えているわけですね。
『やけに植物に詳しい僕の 街のスキマ植物図鑑』では、そんな身近すぎる街中の植物114種の解説と、街の植物観察をさらに深く、違った角度から楽しむための方法をつづったコラムを掲載しています。
一般的に、多くの植物が花を咲かせ、気候もおだやかになる春こそが、植物観察に最適な時期だと思われているかもしれません。春が草花を見るのにぴったりな季節だということに異論はありませんが、冬の植物観察だって、とても魅力的なものなのです。
例えば、このヒメツルソバという植物。丸っこい花がかわいらしいですが、この花は、真夏以外のほとんど一年中咲いています。コンクリートの隙間によく生えているので、見つけたら、近づいてよく見てみてください。
ヒメツルソバは、この丸い花を一つとして数えるのではなく、実際には、もっと小さい花がたくさんついていて、それが丸く集まっています。この小さな花の一つ一つをよく観察してみると、咲いているものや咲いていないもの、さらには花びらに包まれて種ができているものなど、様々な状態の花が確認できます。
これは、咲いている花も咲いていない花も全部合わせて一つの大きな花として目立たせておくことで、真夏を除く一年中、受粉を手伝ってくれる虫を呼ぶことができるということだと思います。こうした知恵があるからこそ、コンクリートの隙間という厳しい環境で生きていけるのでしょう。
また、「冬でも」見られるのではなく、「冬だからこそ」できる植物観察もあることを、お伝えしておきたいと思います。
次の写真の植物は、なんだと思いますか?
花を見るとわかりやすいと思いますが、これは、ハルジオンです。みなさんがイメージするハルジオンは、もっと背が高く生えている姿ではないでしょうか。
これは、寒い冬を越すための「ロゼット」と呼ばれる姿で、背を低くし、葉っぱをベッタリつけて広がっています。何年も生きる多年草や、秋に芽生えて次の年に花を咲かせる越年草でよく見られます。
この姿は、①寒い風をあまり受けない、②地面の温度が直に伝わって暖かい、③太陽の光をめいっぱい浴びることができる…と、寒さに耐える必要があるものの、競争相手の少ない冬にはぴったりの姿なのです。
「ロゼット」で冬を越した植物は、他の多くの植物が芽生える春に、ひと足先に育つことができるという利点があります。また、ホトケノザやヤハズエンドウなど、ロゼットではなく、秋に芽生えておいて、小さな赤ちゃんの姿のまま冬を越す植物もあります。
冬は、植物たちのこうした「準備中」の姿が見られる季節。コンクリートの隙間や空き地をよーく見てみると、意外にもたくさんの植物が生えているのがわかります。もし冬の寒さに耐える植物を見つけたら、それが春になったとき、どんな花を咲かせるのが観察してみるのも楽しいです。