絵本で学ぶ巣ごもり生活の過ごし方 『新型コロナがやってきた』
記事:創元社
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フランスでは、新型コロナの感染が深刻化しはじめた2020年3月に、1度目の全面的な都市封鎖=「ロックダウン」が行われ、人々は自宅待機=「巣ごもり生活」を余儀なくされました。本書では、そんな巣ごもり生活がはじまってから、ふたたび外に出られるようになるまでの様子が描かれています。わかりやすい文章とかわいいイラストで説明されているので、難しくなりがちなウイルスの話も楽しみながら学ぶことができますよ。
たとえば、「巣ごもり」についてはこんなふうに説明されています。
蝶や蛾の仲間には、おとなになるために、居心地のよい「まゆ」をつくるものがいることを、みなさんも知っているでしょう。
自分のためにつくった「まゆ」のなかで、まわりの世界から離れて、自分の身を守り、のんびりと時間を過ごせば、自分のことに集中できて、やがておとなの昆虫に姿を変えるのです。
だから、幼虫のように、みなさんもそれぞれ自分のために「まゆ」をつくって、みなさんのじゃまをする新型コロナウイルスは、「まゆ」の外にいてもらいましょう!
「家にこもる」ことを「まゆのなかで過ごす」というふうに考えると、なんとなく前向きな気持ちになれますよね。しかし、いくら居心地のいい「まゆ」でも、ずっとそのなかにいるとさまざまなトラブルが出てきてしまうもの。本書では、争いごとが起きてしまいそうなときの対処法や、「怒り」をじょうずに表現する方法など、平常時にも役立つ工夫がたくさん散りばめられています。
すっかり身近な存在となってしまった新型コロナウイルスですが、ウイルスはどうやってわたしたちの体に入り込むのでしょう? そしてウイルスをやっつける「免疫」とは、一体どんなしくみなのでしょう? 子どもたちに説明するのが難しいこんな疑問についても、本書ではわかりやすく説明されています。
ウイルスの仕事は、部屋のカギのようなものを使って細胞のなかに入りこみ、そのあとその細胞を、自分と同じウイルスをつくるための機械として利用することです。
ウイルスをつくる機械になってしまった細胞は、自分の仕事ではないことをさせられているので、かわいそうなことに、最後には疲れ果てて死んでしまいます。
おそろしい新型コロナウイルスたちは、自分たちがもっているカギを使って、肺をつくっている細胞のなかに入ることが得意です。
新型コロナウイルスがやってきてから少したつと、免疫システムの別のメンバーは、新型コロナウイルスがもっているカギを使えなくする小さな道具をつくることができます。
この道具を、抗体といいます。
「カギ」というたとえとユーモラスなイラストが組み合わさることで、小さな子どもも感覚的に理解することができますよね。本書ではこのほかに、感染予防策やワクチンについても説明されています。
しかし本書は、難しい話をユーモラスに、わかりやすく説明するだけの本ではありません。新型コロナにどうしてもつきまとう「死」の話についても、きちんと触れられているのです。そこでは、生きているものすべてにいつか死が訪れることや、新型コロナが原因で亡くなってしまう人がいることが事実として淡々と説明され、身近な人が亡くなった場合のことも描かれています。
子どもに対してはついうやむやにしてしまいがちな話題も誤魔化さず、それでいて悲観的になりすぎずに向き合う姿勢は、フランスならではかもしれませんね。そしてそういった話について(無理のない範囲で)知ることは、「知らないこと」に対する恐怖や不安をちょっぴり和らげてくれるかもしれません。
それは、本書全体についても言うことができます。よくわからない存在だった新型コロナウイルスや、それを取り巻く状況について少しずつ学んでいくことで、漠然とした不安も少しずつ減っていき、落ち着いて対処できるようになるはず。なによりやさしい文章とチャーミングなイラストが、それを後押ししてくれますよ!