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世界自然遺産・小笠原諸島の歴史文化と生活がわかる一冊 島民が盛り上げる祭りやイベント

記事:朝倉書店

小笠原諸島・父島の雄大な風景
小笠原諸島・父島の雄大な風景

父島市街地図
父島市街地図

小笠原諸島の玄関:父島・大村地区

 おがさわら丸を下船して湾岸道路を左(西)に向かったところが、コンパクトな父島の中心街です。駐車場の車でわかりにくいかもしれませんが、道路海側にあるペリー提督来航記念碑(写真1)、その山側の星条旗をお見逃しなく。湾岸道路に並行して、山側に飲食店街があります。

写真1  ペリー提督来航記念碑。ペリー提督の出身地、米国ロードアイランド州ニューポート市と小笠原村の友好を記念して、1996年に設置されました(2020 年2月、岩本陽児撮影)
写真1  ペリー提督来航記念碑。ペリー提督の出身地、米国ロードアイランド州ニューポート市と小笠原村の友好を記念して、1996年に設置されました(2020 年2月、岩本陽児撮影)

 湾岸道路の海側、最初の店舗がBITC‒小笠原消費生活協同組合です(写真2)。前身のBonin Islands Trading Company(小笠原諸島貿易会社)は戦後、米軍統治時代に設立され、本土復帰後の1968年9月に生協となりました。返還当日6月26日の午前10時から、欧米・ハワイ系島民が手持ちの米ドルを360円のレートで日本円に交換したのが、ここBITC。筋向いの小祝スーパーと並ぶ島民のライフラインで、おがさわら丸入港日の午後から夕刻には、両店とも一週間分の生鮮食品を求める島民でにぎわいます。

写真2  BITC-小笠原消費生活協同組合では、小笠原に関する書籍の販売もあります(2020 年2 月、岩本陽児撮影)
写真2  BITC-小笠原消費生活協同組合では、小笠原に関する書籍の販売もあります(2020 年2 月、岩本陽児撮影)

 生協の先のお土産店の前をさらに進むと、農協直売店があり、その先には芝生広場(大神山公園)とイベント会場の「お祭り広場」があります。元旦の「日本一早い海びらき」では、和太鼓、東京都指定無形民俗文化財「南洋踊り」、ハワイアンダンスとスリットドラム(割れ目太鼓)「カカ」の演奏が披露され、郷土食ダンプレン(dumplingの訛りで、欧米風「すいとん」もしくは団子汁)の振る舞いもあります。7月上旬のフラ・オハナは一大イベントとなります。それは、ハワイ留学帰りの一女性がつくり出した文化現象として有名で、大人から子どもまで、島民人口の1割もの人が競演する盛況ぶりです。

 8月の盆踊りは練習と本番で5晩も続きます。特に、ピョンピョン左右に跳ねるマッコウ音頭、「サブン、ザブン、サブザブザップーン!」と盛大にジャンプする小笠原音頭など、振付がめずらしいオリジナル曲があります。大村海岸(前浜)は波の穏やかな砂浜で、海水浴客の姿が絶えません。砂浜の中ほど、瀬のように見えるのは、じつは戦前の船着き場跡。夏季には、この浜でアオウミガメの産卵が間近に見られます。

 芝生広場海側に隣接する東京都の小笠原ビジターセンターは、小笠原でまず第一に訪ねたいところ。小笠原の歴史・文化を紹介する常設展は2020年春にリニューアルされました。ほかに、期間限定の特別展もあります(写真3)。島の見どころをまとめた持帰り用リーフレットを多数用意しています。

写真3  小笠原ビジターセンターは東京都の施設。小笠原観光は、ここから始まります(2020 年2 月,岩本陽児撮影)
写真3  小笠原ビジターセンターは東京都の施設。小笠原観光は、ここから始まります(2020 年2 月,岩本陽児撮影)

 湾岸道路の陸側には、三日月山を背にした東京都小笠原支庁の白い建物を正面に、左側に郵便局と村役場が並んでいます。三日月山の山頂付近をよく見ると、岩場の頂上に英国の焼菓子の形をした「スコーン岩」が乗っていたり、軍事施設跡の四角い窓が開いていたり、奇観を呈しています。スコーン岩は昔はもっと立ち上がった姿勢で「蛙岩」と呼ばれていたそうですが、年月とともに現在の姿になりました。役場の裏手、左奥には環境省小笠原世界遺産センターがあり、小笠原固有の生態系と環境保全の取り組みを展示紹介しています。

 右の方の市街地背後の高台を見ると、赤が目立つ建物があります。これが大神山神社(おおがみやまじんじゃ)です(写真4)。急な階段の正面参道のほか、脇道もあります。高台には絶景の展望台が3か所のほか、太平洋戦争のトーチカ(戦跡)もあります。11月1日からの例大祭では相撲や演芸が3晩奉納され、地域を挙げての賑わいとなります。

写真4  大神山神社。11月初旬のお祭りは、村じゅうのお家が留守なのでは? と思われるほどの盛り上がりよう(2020 年2 月、岩本陽児撮影)
写真4  大神山神社。11月初旬のお祭りは、村じゅうのお家が留守なのでは? と思われるほどの盛り上がりよう(2020 年2 月、岩本陽児撮影)

 お祭りやイベントを盛り上げる夜店は、すべて島民手作り。離島ならではです。小笠原島漁協が提供する「メカジキの鉄板焼き」は絶品で、大人気となっています。

 島民が「ウェザー」とよぶ夕日の絶景ポイントのウェザーステーション展望台(写真5)は、市街地から西方向に上った高台の終点。もと気象観測ドームがあったことからこの名があります。季節になると、沖合のザトウクジラが観察できます。陸上からクジラを探すときのポイントを、Web読者限定で特別にご紹介しましょう。まず、クジラを見つけたい一心で、目を皿にして海を凝視してはいけません。逆に広範囲をボーっと眺めることで、クジラのブロー(いわゆる潮吹き)が視野に入ることが多いのです。次に、クジラは海面でブローを数回繰り返しますが、尾を見せて海に沈んだらおしまい。次を探しましょう。最後に、もしホエールウォッチング船が出ていたら、その周囲は要チェックです。理由は分かりますね。以上、陸上ホエールウォッチングの秘伝でした。幸運に恵まれますように!

写真5 ウェザーステーション展望デッキ。この日、3~4頭のザトウクジラのブロー<潮吹き>が見られました(2021年3 月、岩本陽児撮影)
写真5 ウェザーステーション展望デッキ。この日、3~4頭のザトウクジラのブロー<潮吹き>が見られました(2021年3 月、岩本陽児撮影)

 「ウェザー」の手前にも、戦時中の砲台跡が残っています。道を途中から左にとると、港を見下ろす大根山墓地(公園)があります。1830年に小笠原に渡ってきた欧米系・ハワイ系の人びととその末裔、および明治以降の日本人入植者などの墓所があります(写真6)。墓地の道路脇にも、戦跡がいくつかみられます。

写真6  港を見下ろす大根山墓地(公園)(2020 年2 月、岩本陽児撮影)
写真6  港を見下ろす大根山墓地(公園)(2020 年2 月、岩本陽児撮影)

 大村地区を歩いていると、旧日本軍の爆弾・砲弾があちこちに置かれているのに気づきます。これらも小笠原の歴史の一端です。(後編につづく)

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