生誕150年! 綺堂の世界を存分に味わう『お住の霊 岡本綺堂怪異小品集』
記事:平凡社
記事:平凡社
大発見です! 平凡社ライブラリーの『お住の霊 岡本綺堂怪異小品集』所収〈五人の話〉で、新聞連載による印刷不鮮明箇所の確認のため、お忙しいなか国会図書館に行っていただいた同社の担当Sさん(あ、新旧どっちもSさんだ……若いほうです!)から連絡があり、なんと連載前日の『やまと新聞』誌面に綺堂本人による新連載への「はしがき」として、本文では不明だった謎の設定(五名の参加者の由来等)について説明がなされていました! いや、これには編者も大興奮だ(笑)。『いよいよ怖がらせるように、百物語でも始めますかな。』(「はしがき」より)……詳しくは同書本文および編者解説にて!東雅夫氏のTwitter投稿より
これは5月16日にツイッターで投稿された、本書の編者、東雅夫さんのツイートです。そして、何を隠そう、この文章に登場する「若いほう」の担当Sさんが私です。あまりにも東さんが喜んでくださったので、ついついニヤニヤしながらこのツイートに「いいね」をつけてしまいました(笑)。ですので、担当編集として、個人的に皆様におすすめしたいのも、この「はしがき」から始まる連作短篇〈五人の話〉になります。
本書の第一部にあたる、この〈五人の話〉は、『やまと新聞』に大正2年(1913)に連載されていた作品で、全五話のうち四話目「炭焼きの話」以外の四作品が今回初めて復刻掲載されるので、五話すべての完全な形での収録は初ということになります。男性四人と女性一人が、一人一話ずつとっておきの奇譚を披露するという設定なのですが、その語られるシチュエーションの説明がなされているのが、今回の私の大発見(笑)、「はしがき」なのです。
<ゆく春を追い立てるような強い南風は、目に見えぬ大きな鞭を揮って、東京中の花を片っ端から叩き落した。紅も散った、白も亡びた。>という、流れるようなリズムの書き出しに始まり(「紅」と「白」の対比がかっこいい! そして本文を読んでいただくと分かりますが、この後「青」が続きます。素敵!)、晩春の雨降る夜に、とある画家の家に集まった話好きの男女が、ふと偶然に訪れた沈黙の寂しさに耐えきれなくなり、各々知っている話を一題ずつしようということになる様子が描かれています。そしてそこから、サーカス芸人風の奇術師をめぐる犯罪話、戦国北陸の人魚の話、大磯の貴婦人の話、天城の炭焼の不気味な話、江戸の刺青師の切ない(うえに痛い!)話、と展開されていきます。
大正2年(1913)に新聞に掲載されて以来、百年余り復刻されていなかった文章を今読めるというのはなかなか感慨深いものがあります。ぜひご一読いただいて、100年前の空気を感じていただければと思います。
もう一点おすすめしたいのが、第三部〈妖怪実譚〉に収録された、本書の表題作で、かつ中川学さんが描き下ろしてくださった迫力あるカバーイラストにもなっている「お住の霊」です。これは、綺堂の代表作の一つである〈半七捕物帳〉の第一話「お文の魂」の原型となった作品なのですが、「お文」さんのほうが謎解きミステリーなのに対して、原話である「お住」さんのほうは、純粋な怪談話となっており、両方を比べて読んでいただくと、綺堂の創作の跡をたどることができて非常に面白いです。
最後になりますが、今年(2022)は、岡本綺堂が明治5年(1872)に東京芝高輪で生まれてから、ちょうど150年目となる生誕メモリアル・イヤーになります。他にも綺堂本が刊行される予定と聞いておりますので、ぜひ併読して楽しんでいただけたらと思います。どうぞよろしくお願いします!
文=志摩俊太朗(平凡社編集部)