科学捜査のパイオニア、ホームズを徹底解剖 『科学探偵シャーロック・ホームズ』
記事:東京化学同人
記事:東京化学同人
ドイルが世に送り出した60編のホームズ物語のうち、実際にホームズが犯人を突き止めたケースは37あります。意外なことに、そのうち13回は犯人を見逃していて、警察に犯人を引渡しているのは残りの24回です。犯人が捕まる前に死亡するケースもあります。ホームズ自身、4回失敗したと言っています。
現実の捜査と同様、名探偵のホームズでさえ時には失敗すると聞いて意外に思うかもしれません。しかしバラエティーに富んだ犯罪のタイプ、個性豊かな依頼人たち、そして失敗も含めたさまざまに異なる事件の結末が、多くの人に読み継がれるに値する魅力的なストーリーを生み出しているのです。
『科学探偵シャーロック・ホームズ』では、そんな人間味あふれるホームズ物語のなかの「科学」の要素に光を当てています。60編のどれもが何らかの科学に関係しています。単なる分子の話で終わることもあれば、具体的な科学的手法について語っていることもあります。また、科学が事件解決の重要な鍵となることもあれば、雰囲気づくりのためだけのことも。
シャーロッキアンな科学の専門家である著者は、ドイルが科学志向の探偵を生み出した背景を探りながら、科学をキーワードにホームズ物語の一つ一つを丹念に読み解いていきます。
かつて作家のアイザック・アシモフは、ホームズの発言をいくつか引合いに出し、現代人からみるとホームズは科学知識を欠いていたと指摘しました。本書では、小説が書かれた当時の科学用語の使われ方を考証したり、異なる観点から仮説を提示したりして、19世紀のホームズが現代でも科学的に妥当といえる推理を行っていたと見解を述べています。
探偵物語に科学を取込もうとしたドイルの試みは果たして成功したのでしょうか。それは本書を読めば明らかになるでしょう。