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アーセナルファン必読! ——『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』 著者インタビュー

記事:平凡社

チームカラーの赤に染まるエミレーツスタジアム
チームカラーの赤に染まるエミレーツスタジアム

『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』チャールズ・ワッツ著、結城康平・山中拓磨訳 平凡社
『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』チャールズ・ワッツ著、結城康平・山中拓磨訳 平凡社

アーセナルに関する書籍は「野望」だった

著者のチャールズ・ワッツ氏
著者のチャールズ・ワッツ氏

――なぜこの本を書こうと思ったのですか? また、いつ頃から本の構想をあたためていましたか。

チャールズ・ワッツ(以下、ワッツ):正直なところ、本を書くということは、頭の中にはありませんでした。アーセナルについての本を書きたいとはずっと思っていましたが……。サッカーメディア「GOAL」のアーセナル特派員としての仕事がものすごく忙しかったものでしたから。

 そういう状況の中、2023年2月に、出版社のハーパーコリンズの担当者から私のところに連絡があり、「ミケル・アルテタと彼がアーセナルに監督としてやって来てからのアーセナルの歩みについて書くことに興味はないか」と打診されたのです。

――本を執筆しようと、その決断を下すまでに時間を要しましたか?

ワッツ:いや、そんなに時間はかかりませんでした。さきほどもお話ししましたように、アーセナルに関する本をまとめるというのは、私にとって大きな野望でした。もちろん、本を1冊書くということは初めての経験でしたので、私にとっては未知の世界への一歩でしたが、やり遂げる自信はありました。

 唯一心配だったのが、取材などの通常の仕事をこなしながら、本を書くための取材や執筆する時間をどうやって確保するかということでした。そして私には2人の幼い子どもがおりまして、子どもたちと一緒に過ごす時間をどう確保するかも課題でした。しかし、妻が「ぜひやるべき」と応援してくれたので、出版社からオファーを受けてすぐに取り掛かりました。

ファンからの圧倒的な支持に驚嘆

イギリスでは2023年11月に発売された
イギリスでは2023年11月に発売された

――日本ではこの6月から全国の書店やECサイトで販売がスタートしました。イギリスでは2023年11月に発売されています。読者の反応についてお聞かせいただけますか。

ワッツ:ありがたいことに、素晴らしい反響をいただいています。正直なところ、私自身が反響の大きさに圧倒されてしまっているくらいなんです。本の発売を記念するパーティーは信じられないほど盛り上がりました。特にアーセナルのファンからは、圧倒的な支持をいただきまして……。そして、さらに嬉しいことに、出版後1週間で「サンデー・タイムズ」のベストセラー本としても紹介されました。

――本書では、番記者であるワッツさんでしか得ることができないアルテタ監督にまつわるエピソードや、アルテタ監督にまつわる選手やスタッフのコメントが紹介されております。現役の監督に関する取材を受けることに対して躊躇する人もおられたかと思いますが、取材はスムーズに進みましたか。

ワッツ:選手として、あるいは監督として、ミケル(・アルテタ)と一緒に仕事をしたことのある人たちからたくさんの協力を得ました。ミケルの元チームメイト、クラブスタッフなど、彼らから得たコメントは、ミケルのキャリアを語る上で本当に役に立ちました。とりわけ、ミケルがまだ現役選手としてプレーしていた頃、ミケルはどんな選手でどのような人物だったのか、プライベートではどんな感じだったのかということに関するインタビューは、素晴らしい洞察を多く得ることができました。

アルテタの人間力を垣間見る

――特に読んでもらいたい部分を教えていただけますか?

ワッツ:ミケルがまだアーセナルでプレーしていた時期のエピソードですね。具体的には本を読んでいただきたいので、詳細は本に譲りますが、他の選手のトレーニングのやり方にもいちいちアドバイスするというエピソードからは、完璧を求める彼の意欲を説明するという意味でも、非常に参考になりました。本の中にも出てくる、アーセナルでの元チームメイト、バカリ・サニャ(2007~2014年にアーセナルに在籍していたDF)が話してくれたエピソードは、アルテタがどれほどサッカーに集中していたのかをよく物語っていましたね。

 また、アーセン・ベンゲル時代のアーセナルで移籍交渉を務めていたディック・ローの話も大変興味深いものでした。中でも、エバートンで活躍していたアルテタを、アーセナルに移籍させた時の話は、アルテタの理解力、人間力がにじみ出ていると感じました。複雑極まりない移籍交渉をスムーズに進めることを優先し、ミケルはあれこれと条件を求めることはしませんでした。ミケルは自らに課されている役割を十分に理解していたのです。そしてそれがアーセナルにとってもエバートンにとっても利をもたらすということも。

 今回の本は、ミケルについてだけ書かれたものではありません。もちろん、彼が中心的な存在であることは明らかですが、アーセナルがここ数年で歩んできた道のりについても書きました。私は分裂状態に陥っていたクラブの再生に向けた過程についてもまとめたかったです。もしかしたら、それが最初に書き始めたときの本当の目標だったのかもしれません。

エジルは見ていてエキサイティングな選手だった

2013~2021年にアーセナルに在籍したエジル
2013~2021年にアーセナルに在籍したエジル

――エジルとオーバメヤンの解任はアーセナルにとって大きなターニングポイントだったと思いますが、あなたも同じように感じますか?

ワッツ:そうですね。どちらもミケルがアーセナルを軌道に戻そうとする過程で下した大きな決断でした。エジルもオーバメヤンも、実力のある選手でスーパースターでしたし、彼らはアーセナルのファンから本当に愛されていました。そのような状況下で二人をアーセナルから放出するという自分が正しいと思うことをしなければならないことも知っていましたし、その結果次第ではアーセナルやミケルにとっても非常に大きな影響を与えるということも充分に理解していました。

 ミケルが2019年12月にヘッドコーチとしてアーセナルにやって来たとき、クラブに求める基準について話しました。そして誰もがその基準に従わなければならないことも明確にしました。エジルとオーバメヤンの放出でミケルが示したのは、アーセナルやミケルにとって、「その選手が有名な選手であるかどうか」は関係ないということでした。実力と練習や試合、チームに対する真摯な姿勢があれば試合に起用される可能性が高くなる。しかしその一方で、アルテタが求める基準に達しない選手は門前払いされる。私個人の見解からすれば、ミケルのような冷徹な姿勢が数年前のアーセナルには必要なことだったと思っています。

――個人的には、取材をするあなたの目の前にエジルがパラソルの下に座っていたというエピソードが印象的でした。試合に出ることができなくなったエジルのミケルやアーセナルへの反発が表れていると感じました。ただ、それだけエジルはアーセナルのことを愛していたのだと思います。エジルはどのような存在でしたか?

ワッツ:エジルのアーセナルでのキャリアが、いわば喧嘩別れのような形で終わってしまったのは残念でした。彼は並外れた才能を持ち合わせた選手でしたし、私は彼のプレーを見ることが大好きでした。エジルがアーセナルに移籍してきたときは「すごい選手がやってきた」と誰もが興奮しましたし、実際、彼はアーセナルに在籍していた期間に素晴らしい活躍をしました。すべてのアーセナルのファンの期待に応えるような活躍をみせてくれたかどうかはわかりませんが、私にとって、彼は非常にエキサイティングな選手でした。

タフに闘うことができれば来シーズンは優勝できる

――非常に残念なことに、アーセナルは今季優勝を逃しました。2024-25シーズン、アーセナルは優勝を手に入れることはできるのでしょうか。

ワッツ:来シーズンは絶対に優勝できます。ミケルはこの5年でアーセナルをタイトル争いできるチームへと変えました。しかし残念ながら、現在はマンチェスター・シティの時代になっています。優勝を果たすには、どんな状況でも勝ち点3を確実にとることができる完璧なチームでなくてはなりません。それがアーセナルとミケルが直面している課題ですが、私は本当に彼らがやってくれると信じています。

――現在のアーセナルを牽引する選手は誰だとお考えでしょうか。

ワッツ:ブカヨ・サカとマーティン・ウーデゴールは、アーセナルにとって非常に重要な選手です。2023-24シーズンはキャプテンを務めたウーデゴールは、チームメイトの精神的支柱にもなっているクラブの“指揮官”でもあります。彼は世界最高峰の選手の一人ではないでしょうか。

 また、ウェストハムから移籍してきたMFのデクラン・ライスも非常に期待できる選手です。さらにDFのウィリアム・サリバとガブリエウ・マガリャンイスも本当に欠かせない存在です。サリバとガブリエウというセンターバック、そして中盤にライスがいれば、アーセナルはとてもタフに闘うことができます。来シーズン、これらの選手全員がフィットした状態を保つことができれば、アーセナルは再びタイトルを狙えるようになると思います。

――あなたにとってアーセナルとはどのような存在でしょうか。

ワッツ:「すべて」です。物心ついたときからアーセナルのファンでした。私の父は北ロンドンに位置するホロウェイ出身で、この地域で育ち、学校に通い、子供のころはエミレーツのすぐ隣の家に住んでいたんです。だから祖父はアーセナルの大ファンで、私にアーセナルの素晴らしさや偉大さについていつも話してくれました。私の人生で最高の瞬間は、父の隣でアーセナルを見ているときでしたね。アーセナルは私と父をつなぐ、「情熱」のような存在ですね。

――他のクラブにはないアーセナルの魅力はどこにあるとお考えでしょうか。

ワッツ:一言で表現するとなれば、「クラス(class)」です。「優雅さ」「品位」ともいえるでしょう。アーセナルの監督、選手、スタッフ、アーセナルに関わる人たちは、どんな状態下に置かれていても、常に正しい方事を進めようとします。こうした姿勢は他のクラブにはないものですね。

[インタビュー=平凡社編集部・平井瑛子]

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