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虐待を受けた保護犬と非行少年との絆に涙……27匹の保護犬&保護猫と人間との交流から学ぶ「命の重み」

記事:WAVE出版

『保護犬と、保護猫と。 必然の出会いで結ばれた物語』表紙イラストより(©てらおかなつみ)
『保護犬と、保護猫と。 必然の出会いで結ばれた物語』表紙イラストより(©てらおかなつみ)

『保護犬と、保護猫と。 必然の出会いで結ばれた物語』(今西乃子著/WAVE出版)
『保護犬と、保護猫と。 必然の出会いで結ばれた物語』(今西乃子著/WAVE出版)

 著者は児童文学作家であり、公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事だ。もともと、「犬」という字さえ、愛しく思う愛犬家であったからこそ、動物愛護の精神が現在ほどではなかった2000年当時、愛犬の散歩中に捨て犬を見かけては胸が痛んだ。

 なぜ、飼い犬を捨てることができるのか。捨てられた犬たちはどうなってしまうのか。気になり、調べる中で「動物愛護センター」という機関や保護犬・保護猫の存在を知り、取材を行うようになった。

エピソード1で語られる、少年院での取り組み
エピソード1で語られる、少年院での取り組み

 アメリカ・オレゴン州ポートランドには、ユニークな取り組みをしている少年院がある。譲渡先が見つかるまで、アニマル・シェルターの保護犬を少年院の少年たちがお世話をするのだ。

 クリスという少年は、飼い主から虐待を受けた保護犬「ジンジャー」のお世話を自ら申し出た。幼少期、親から無視されていた彼はジンジャーに、自身の傷を重ねたのだ。

 信頼っていうのは、失うのは簡単だけど、取り戻すのは簡単じゃない――。そう語るクリスがジンジャーとの距離を縮める過程や愛情を注がれたジンジャーの変化は、感涙必至。

 犬と人間は、同じ言語を話せなくても心を通わせることができる。そして、人間も動物も必要としてくれる存在がいてこそ生きていける。クリスとジンジャーの絆はそんな学びも与えてくれるのだ。

写真が物語る「命の尊さ」

 著者が紡ぐ物語と共に注目してほしいのが、犬猫の写真である。特に目を奪われたのは、著者の愛犬・未来の姿だ。未来は虐待で深い傷を負い、殺処分対象になるも、寸前で動物保護ボランティアに引き出された。

 幸い日常的な介助は必要としないが、虐待による心身の傷は大きく、お迎え後、著者は先住犬との関係性にも悩んだ。

 だが、保護ボランティアから深いアドバイスを受け、「家族にする」と改めて覚悟を決めたところ、2匹の関係性は不思議と良い方向へ。センター収容時の絶望的な表情から一変し、楽しそうに砂浜を走る未来の変化を写真で知ると、プロローグに綴られていたワンフレーズが頭に浮かぶ。

“命を捨てるのも人間だが、命を救うのもまた、人間でしかない”(引用/P7)

砂浜を走る未来や、小学校で「命の授業」を行う未来の様子
砂浜を走る未来や、小学校で「命の授業」を行う未来の様子

 一般的に、障害を持つ犬猫は譲渡先が決まりにくい。SNSで“うちの子自慢”をしても「可哀想」などといった心ない声が届くこともある。

 だが、可哀想と憐れまれていい命などこの世にひとつもないと私は思う。辛い事情や生い立ちに心が痛むのは自然なことだが、その子自身を“可哀想な存在”として捉えるのは懸命に生きている命に失礼だ。

 人間と同じで犬や猫だって、ポジティブな言葉をかけられたほうが嬉しいはず。生い立ちや抱えてきた痛み、障害なども含めて、他者の愛犬や愛猫に「かわいい」を浴びせるのも、人間ができる犬猫の愛し方なのではないだろうか。

 愛情を図る“他人のものさし”と“自分のものさし”は同じではない。(引用/P104)

 ネットで気軽によその犬猫を見られる今こそ、この言葉を胸に刻んでおきたい。

子猫に教わった「真の豊かさ」

 私は、猫がいたから生きてこられた人間だ。猫は人間に媚びないのに、悲しい時や辛い時には心を見透かすかのように、そっと寄り添ってくれる優しい生き物である。

 クールなように見えて、実は感情が表情に漏れやすいところや自分の欲求を貫く芯の強さも愛おしい。

 そんな猫バカであるから、ねこぺんという子猫との出会いで大事な気づきを得た廣瀬章宏さんのエピソードが心に染みた。

 廣瀬さんは公益財団法人・日本動物愛護協会の事務局長で常任理事だ。自宅マンションに現れた、ねこぺんを迎えたことで人生は激変する。

 ねこぺんのように捨てられる命を一頭でも減らしたい。そう思い、日本動物愛護協会のボランティア活動に参加。やがて、協会からの誘いを受け、勤めていた証券会社を早期退職し、協会の職員となった。

 給料は3分の1に減ったが、この転職によって廣瀬さんは自分の人生の指針が、いつの間にか「どれだけお金を稼ぐか」から「どれだけ自分の仕事を愛せるか」に変わっていたことに気づいたという。

 廣瀬さんのエピソードは、自分が求める豊かさを考えるきっかけを授けてくれた。愛猫や愛犬は当たり前のようにそばにいてくれるから、私たちはしばしば、その日常が永遠に続くと錯覚してしまう。

 だが、別れは必ずやってくるからこそ、たくさん触れ、話しかけ、今ある豊かさの価値を忘れないようにしたい。その日常は、お金がいくらあっても取り戻せない尊いものであるのだから。

 命の授業とも言える本書。多くの愛犬家や愛猫家に届いてほしい。

出会いから最期まで。1章完結のようで、繋がっていく物語。
出会いから最期まで。1章完結のようで、繋がっていく物語。

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