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コロナ禍の動物保護 ギリシャ・アテネで見た「四本足の市民」のいま

記事:世界思想社

シンタグマ広場でボランティアの人から食事をもらう犬たち(『動物保護入門』より)
シンタグマ広場でボランティアの人から食事をもらう犬たち(『動物保護入門』より)

 『動物保護入門――ドイツとギリシャに学ぶ共生の未来』では、ドイツの理想的な保護施設ティアハイムやギリシャ・アテネの柔軟な野犬保護を、日本の動物保護の現状と比較しながら紹介した。ティアハイムで暮らす動物の9割以上が新しい飼い主を得ることができ、飼い主が見つからない動物も殺されずに一生施設で暮らしていけるという実態に驚いた読者が多かった。また街を自由に歩く野犬を保護、治療や不妊・去勢手術、訓練などをして再び路上に放ち、アテネ市、動物保護団体、地域住民が世話をするというユニークな保護プログラムにも大きな反響があった。官民一体の連携で、財政危機による大幅な予算削減のピンチも乗り越えてきた。しかし長引くコロナ禍で、いま、あの犬たちはどうしているのだろうか。

アクロポリスの遺跡でくつろぐ犬(『動物保護入門』より)
アクロポリスの遺跡でくつろぐ犬(『動物保護入門』より)

ロックダウン下、路上の動物を案じた声明文

 ギリシャは3月下旬の早めのロックダウン実施が功を奏し、新型コロナウィルスの感染拡大が抑制されてきた。しかし観光が主要産業の国、ロックダウンが解除されて夏季の観光オンシーズンが到来すると感染者が増え続けた。特に感染拡大が著しい地域は、移動、行動の制限やレストランなどの時間短縮営業措置がとられている。9月24日時点で累計感染者16,627人、死者366人。人口比で見ても他の欧州諸国に比べれば抑えられているが、この日の新規感染者は342人、死者9人。パンデミックが始まって以来、2番目に多い1日あたりの死者数だ。病床不足が深刻化しており、近日中にも再び厳しい措置がとられるかもしれない。

 3月23日から5月4日まで続いた外出禁止期間では、外出許可を携帯電話のSMSで申請するか、申請用紙に記入しIDとともに所持した。許されたのは、生活必需品や薬品の購入、治療、やむを得ない出勤、社会的距離をとった運動、介護が必要な人への訪問など数項目のみ。時間制限もあり、違反者への罰金は150ユーロと厳しいものだった。

 外出禁止の開始時、飼い主のいない動物たちが気になったが、全ギリシャ動物保護・環境保全連盟(PFPO)が早々に声明文をあげていた。ウィルス研究の専門家でアリストテレス大学獣医学部のクリタス教授が「世界各地で感染した人間からペットに感染する事例が数件確認されたが、主な感染経路は、人間同士の飛沫感染と接触感染だ。犬や猫が重要な感染源となる証拠はない。手洗いや消毒など、衛生管理に気をつければ、動物との接触は問題ない」と述べた発言を引用。感染を恐れてペットを捨てないように呼びかけ、行政からもその旨を公表するよう要請していた。

 また声明文では、人々の外出禁止で路上生活の動物が飢えることを危惧。幼稚園から大学まで全教育機関が既に休校、屋外の公園や遺跡なども閉鎖されていた。更にロックダウン突入でほぼ全ての小売店が閉店、大半のオフィスがテレワークとなった。それらの場所を拠点に生息する地域犬、猫は多い。学校やオフィス、屋外施設に通う人々が、住み着いた犬猫を共同で世話しているケースが多々あるからだ。

 よって動物の世話のための外出が許可されるように要請。また外出が難しい人々の代わりに、行政の動物保護部門が、より広範囲に渡って動物の世話ができる体制を整えるべきだと訴えていた。

ロックダウンで近所のカフェも閉鎖、以前は日がな一日、店員やお客と共に過ごしていた地域猫が寂し気に座っていた(2020年3月23日撮影)
ロックダウンで近所のカフェも閉鎖、以前は日がな一日、店員やお客と共に過ごしていた地域猫が寂し気に座っていた(2020年3月23日撮影)

コロナ禍でも官民連携の動物保護

 動物保護連盟の要請が効いたのか、環境局や市民保護省などからも動物を通じた感染について同じ内容の公式声明が発表された。そして4月22日、ギリシャ政府は全国の自治体の動物保護部門に緊急支援として140万ユーロを充当することを決定。コロナ禍での保護動物への食糧や医薬品、衛生用品などの費用に充てられた。ペットフード産業など民間の会社からの寄付も大きな貢献を果たした。

 動物保護団体に属する友人によれば、ロックダウン中、動物の世話という外出理由は許容されたそうだ。変化はマスク着用と消毒の徹底くらいで、管理下の動物たちの世話はほぼ通常どおり続行できていたという。

 また各市により対応は異なるが、コロナ禍で収入減になった市民が多いので、個人の給餌ボランティア(不妊・去勢手術のための捕獲も伴った活動)でも、市に登録されれば、自費でなく市から供給されるペットフードで地域犬や猫に給餌ができるようになったという報告もある。本書で詳しく述べているが、以前からアテネ市の動物保護課は経済的に困窮している飼い主のため、ペットフードの供給や予防接種なども行っていた。

コロナ禍の最中でも、地域犬たちは自由気ままにアクロポリス遺跡の周辺でくつろいでいた(2020年9月27日撮影)
コロナ禍の最中でも、地域犬たちは自由気ままにアクロポリス遺跡の周辺でくつろいでいた(2020年9月27日撮影)

 大変なのはロックダウン時、人々が外出せず、自宅周辺で生活していたせいか、近所で怪我や病気の動物を見つけ、保護・救出を依頼するケースが急増したことだ。保護数が増えたので難しい状況にあるのは否めない。現在も集会の禁止で譲渡会が開けない状況は厳しいが、以前より力を入れてウェブ上での里親募集情報を発信しているためか、意外にも譲渡のペースは落ちていないそうだ。

 感染拡大が抑制されていたにも関わらず実施された厳しいロックダウンは、国民の健康と安全のためだが、特に高齢者や基礎疾患のある弱者を守ろうとするものだ。本書で提示した問いかけに通じるものであるが、弱者を守ろうとする社会は、動物にも配慮できる社会であることを改めて認識させられた。

『動物保護入門』(世界思想社)
『動物保護入門』(世界思想社)

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