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学校教育に忍び寄るオカルト思想 原田実『オカルト化する日本の教育』より

記事:筑摩書房

original image: beeboys / stock.adobe.com
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†教育現場は感動に飢えている

ここ一〇年くらいの間に「江戸しぐさ」の道徳授業への導入や、親学の台頭と並行して教育現場に広まりつつあるものとして、大規模な組体操、1/2成人式、誕生学などが挙げられる。

小中高等学校の運動会などで児童・生徒たちによる組体操は、ピラミッドやタワーなどで次第にその高さを競い合う傾向があった。二〇一四年度には組体操関連で起きた事故が全国で八五九二件(独立行政法人日本スポーツ振興センター調べ)に及んでいる。組体操で起きる事故の中には死者が出たり重傷者に重い後遺症が残ったりした例もある。

名古屋大学准教授の内田良の試算によると一五一人で構成される一〇段のピラミッドだと土台の中央部には一人あたり三・六人分の体重がかかる生徒がいる。中学三年男子の平均体重ではこの荷重は二〇〇キロを超える。現在の学校ではこのような無茶が教育の名の下に行なわれているわけである。


二〇一六年三月には国が組体操の安全対策を講じるよう各都道府県教育委員会に通達しているが、事態の深刻さを思えば、そのような通達で済ませることなく積極的に禁止していってもよいくらいである。

しかし、組体操の禁止を拒む最大の勢力は、教師や父兄である。教師は生徒たちが共同作業を通して協調性を養うことを期待する。また、運動会のたびごとにSNSには父兄撮影による組体操の画像と感動の言が並ぶことになる。そうした情動の前に、組体操の危険性は度外視されてしまうわけである。

†感謝されたい親や教師

「1/2成人式」とは、小学四年生を対象に父兄を学校に招き、児童たちが一〇歳まで育ててくれた親への感謝とその先一〇年の親の養育へのお願いを斉唱するというものである。学校ではイベントを盛り上げるために、児童の幼年期の写真を提出させたりもする。一九八〇年頃に兵庫県西宮市の一人の教諭によって発案されたものとされるが、二〇〇二年に小学校国語の教科書「十さいを祝おう」という単元で取り上げられてから全国的に広まり、たとえば東京都では二〇〇六年の時点で公立小学校約一三〇〇の過半数で行なわれていたという(『毎日新聞』二〇一五年二月二七日付)。

1/2成人式は、児童たちが皆、複雑な事情のない「幸せな家庭」にいるという前提から成り立っている行事である。現実には離婚やネグレクトなどさまざまな家庭の問題があることを思えば、全学で一律に行なうべき行事かは疑問があるが、これも子供たちの感謝の辞に感動した父兄たちの支持があって普及の歯止めはききそうにない。

誕生学は「生まれてきたことが嬉しくなると未来が楽しくなる」というコンセプトで、子供たちに生まれる力を再認識させ、自尊感情を高めるためのライフスキル教育プログラムだという。その普及を目的とする誕生学協会は二〇〇五年に女性起業家の大葉ナナコによって創立された。

精神科医の松本俊彦は、もともと自尊感情が低く、生きづらさを抱えているような子供にとって、誕生学は自尊感情を高めるどころか、より生きづらい方向に追い詰めてしまうと指摘している。松本によれば、誕生学の主張が教育現場で説得力を持つのは、父兄や教師の多くが子供の頃に追い詰められるような生きづらさを抱えていなかったからだという。

誕生学協会ウェブ・サイトによると同会によるスクールプログラム(出張授業)は二〇一七年四月から六月にかけてだけで幼稚園・保育園・小中高等学校・自治体など七八か所で実施された。そこでは子供七三二〇人、大人二〇二六人の合計九三四六人が受講したとされる。

組体操、1/2成人式、誕生学に共通しているのは、父兄や教師が満足や感動を味わうために子供たちに負担を負わせ、しかも、その父兄や教師はそれが子供のためである、と思い込んでいるということである。

そして、それは親学にもあてはまる。親学では子供から親への感謝の念を歌う親守詩なるものが推奨されている。

子供が子守歌を歌ってもらうように、父兄の方が子供から「親守」してもらうというのは私には異様に思える。現代の親たちは親であることに対して、そこまで自信を失っているというのだろうか。

このグロテスクさは、親学が父兄および推奨する教師たちの感動と満足のためにあることに由来している。子供たちが大人に、感動や満足をもたらすことは一見、いい話のようである。けれど、そこまで大人は子供に感謝されたいのだろうか。

大手メディアもこの手の「いい話」については好意的だ。平成三〇年の第五回親守詩全国大会は朝日新聞東京本社新館ビル(浜離宮朝日ホール)で開催されており、共催には毎日新聞社の名が掲げられている。

(『オカルト化する日本の教育』より抜粋)

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