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『超高齢社会2.0 クラウド時代の働き方革命』想定外の長生きは、災厄にすぎないのか?

記事:平凡社

 人口的にみると、60歳以上の高齢者が4,317万人(2019年10月1日現在推計)で、総人口に占める割合は34%。日本は、現時点ですでに実に3人に1人が還暦過ぎということになります。

 今の日本が抱えているもう一つの問題である少子化。今年(2020年)に成人を迎えたのが120万人。出生数は、すでに2016年には100万人の大台を割りこんでいます。ということは、遠くない将来、新成人の数も100万人以下になるのは予想に難くありません。

 ああ分かった、分かった、いつもの「少子高齢化問題」ね、と言われそうですが、これは、どこか別の国での問題ではなく、この日本が抱えている問題であり、自分たちもその構成員だということが大事なポイントなのです。

 たとえば、引退して10年くらいの70歳前半で死ぬのはちょっと早いけど、平均年齢の80歳前後にはだいたいこの世からおさらばできるだろうと、のんきな還暦じいさん、ばあさんは考えているでしょう。

 ところが、ところが、統計的事実としては、平均寿命は若い時に亡くなった人に下方に引っ張られており、実際に死亡のピークは90歳前後。2020年に還暦を迎える人たちは約180万人ですから、この人たちの半数近くの90万人前後が90歳を迎えるわけです。 

 引退してから15~20年くらい生きるというイメージでいたら、その倍の30年近くを過ごさなければならなくなる。これは、サラリーマン生活の期間にほぼ匹敵する時間です。

 長寿は祝うべきことですが、想定外に90歳過ぎまで生きているとなると、話は変わってきます。金融審査会の「老後資金は2,000万円問題」も、どこか他人事だった「高齢化社会」が、2,000万円という具体的な数字が示されたため、俄かに自分ごとになったという背景から出てきた問題です。

長寿は災厄なのか?

 自分もその構成員である「超高齢社会」は、不安に彩られています。寿命は延びるものの、健康面(2人に1人はがんになる、認知症リスク)、経済面(年金だけでは足りず、2,000万円の貯蓄が必要)、生活面(高齢者運転手の事故、孤独死)での暗い予測が蔓延し、それがシニア世代の将来不安を煽っているのが現状といってもいいでしょう。長く生きれば生きるほど、この不安は現実の問題として立ち現れてくる可能性が高くなります。誰かがいみじくも言っていました、「長生きは健康に悪い」と。

 本書は、これらの問題の解決策を提言しています。筆者の檜山氏は、2007年の1月、2055年に予想される日本の人口構成のグラフを逆さまにしてみることを思いつきます。

その瞬間、超高齢社会化した逆ピラミッドが、我が国がぐんぐん成長を遂げていたころのピラミッドに変わりました。そういうことか。年長者が下の世代をバックアップする社会構造、もしくは近い世代で支え合う社会構造が実現できればいいんだ。これからもまだまだ成長していける社会がつくれそうな気がしてきました。

 これが本書のモチーフです。

 人口が減少する現役世代の若い人が、引退をした高齢者を支え続けるのでは、明らかに破綻がみえています。

 この問題を解決するための檜山氏の基本的なアイディアは、「高齢者クラウド」というICTを使った仕組みで、高齢者のモザイク型就労を可能にするということです。この「モザイク型就労」は、細かく細分化された(つまりモザイク状になった)時間を有効に使うことや、空間的に離れた人たちの共同作業を効率的にサポートすることによって実現されます。そして、これらを支えるベース技術が、現在、顧客分析やマーケティングなどで盛んに使われている、AIや機械学習を使ったビッグデータ分析や自然言語解析、あるいはマッチング技術など、現在お馴染みのクラウド技術なのです。

 ICTを積極的に利用し、高齢者をいわば引退した人ではなく、生産に寄与する人に変えるわけです。本書で描かれている未来は、いささか楽観的過ぎる感があるかもしれません。

 しかし、長寿は人類の夢でしたし、今の社会はそれを実現しつつあるのです。ところが、それが不安に満ちた「災厄」のように感じられるのはなぜなのでしょうか? それは、われわれの意識が、

産業構造など私たちを取り巻く環境が大きく変わっているにもかかわらず、仕事や家族に対する意識や価値観が高度経済成長のままで固定されてしまっている……

 からです。筆者は、「ココナラ」、「みんなでDAISY」、「T-echo」、「Q&Aカード」などさまざまな場所で行われている実験や試みを丹念に追っていく中で、意識の変化を感じ取り、それを加速するための仕組みを提案してくれます。

超高齢社会の最先端を走る日本が、持続可能な高齢社会の仕組みを構築し、世界に先駆けて発信することの意義は、ひじょうに大きなものになるでしょう。その方法の一つとして、ICTを活用した高齢者就労は、必ずや明るい日本の未来の一助になるはずです。

 世界的ベストセラーになった『LIFE SHIFT――100年時代の人生戦略』(リンダ・グラッドストン/アンドリュー・スコット、東洋経済新報社)は、すでに深刻な少子高齢化に直面している日本の課題として、「新しいことを試みる開拓者をもっと評価し、そういう人たちにもっと報いる社会にしていく」ことを挙げています。本書も、この指摘を共有し、こう結んでいます。

2020年を目前に控えた今こそ、社会の構造と価値観をアップデートするときだと思います。

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