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新型肺炎をどう封じ込めるのか? 採るべき対策は『ゾンビ襲来』に!

記事:白水社

『ゾンビ襲来-国際政治理論で、その日に備える』(白水社)
『ゾンビ襲来-国際政治理論で、その日に備える』(白水社)

 リベラルなパラダイムは、グローバルな対ゾンビ・レジームの内部で形づくられる二つの重大な抜け穴の存在を予測する。第一に、幾つかの国々は、問題がエスカレートしてローカルなレベルでは制御できない段階に至るまで、ゾンビ・アウトブレイクに関する情報を適切なタイミングで提供することができないかもしれない。権威主義国家は、国民の健康に関する危機の存在を認めることが、当該社会に対する国家統制の脅威となることを理由として、しばしば、そのような危機の存在そのものを認めない。

 非民主主義的レジームは、災害を予防し封じ込めるために必要な公共財に投資を行う可能性が低い。これが、権威主義国家において、災害から生じる人的損失が大きくなってしまう理由の一つである。地方の行政担当者は、バッド・ニュースの送り手になってしまうことを恐れ、指揮伝達系統にゾンビ・アウトブレイクの報告をするのを遅延させるかもしれない。発展途上国は、リビング・デッドの再発生を探知するインフラを有していないかもしれない。彼らは、巨大な市場を持つ国による政策的対応が、既に宣言された食屍鬼のアウトブレイクに対して及ぼす経済的なインパクトを恐れるのだ。

 中国が他の国々に対し、適切なタイミングで、透明性を持って、確証的にSARS〔重症急性呼吸器症候群〕の問題を公表することを初期段階で拒んだのは、このような政策的難問の一つの典型例である。中国は、小説『ワールド・ウォー・ゼット』で同様の振る舞いを行う。小説では、中国は、国内のゾンビ問題を隠蔽するために、台湾危機を勃発させてしまうのだ。

ダニエル・ドレズナー『ゾンビ襲来』(白水社)P.50-51より
ダニエル・ドレズナー『ゾンビ襲来』(白水社)P.50-51より

 第二に、リビング・デッドを擁護するための非政府組織(NGO)が、ゾンビを抹殺することの障害となる可能性があるが、これは驚くには値しないことである。グローバルなガバナンス構造を変容させるNGOの能力は、国際関係論の学者の間でも議論の対象となっている。しかしながら、少なくとも、グローバルな市民社会は、グローバル・ガバナンスのルールを実現する取引費用を高くする可能性がある。「ゾンビの平等」を主張するNGOは、現時点でも少なくとも一つは存在している。それは「アンデッドの権利と平等に関する英国市民連〔略称CURE〕」である。

 さらに強力なアクティビスト・グループ、たとえば、ゾンビ・ライツ・ウォッチ〔元ネタは、Human Rights Watch〕、国境なきゾンビ〔元ネタは、国境なき医師団〕、ゾンビエイド、ゾンビの倫理的扱いを求める人々の会〔元ネタは、動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)〕などは、世界ゾンビ機関(WZO)がゾンビの抹殺を達成するにあたって困難を生じさせることになるだろう。

ダニエル・ドレズナー『ゾンビ襲来』(白水社)P.82-83より
ダニエル・ドレズナー『ゾンビ襲来』(白水社)P.82-83より

 これらの不測の困難が問題とはなるものの、それが過大に評価されるべきではない。たとえば、中国はSARS事件の結果から学習し、北京当局は二〇〇九年にH1N1〔A型インフルエンザの亜型の一つ〕が流行した際には、より透明性の高い対応を行った。各国がパンデミック問題に適応してゆくにつれて、アンデッドの拡大を隠蔽する国の数は減少してゆくのだ。たとえ、マルチラテラルな解決策が不十分なものだと分かったとしても、リベラルは、安全装置として働く“ミニラテラル”、もしくは地域的な機関の創出を思い描く。

 世界ゾンビ機関が失敗した場合には、合衆国は北米対ゾンビ協定〔元ネタは、NAFTA〕を締結し、問題に対して地域的に対処することとなるだろう。同様に、このような問題に対処するすべての「指令(directive)」の模範となるような指令を欧州委員会が発令することも予想される。ASEANやメルコスール(南米共同市場)、アラブ連盟やアフリカ連合の創設も、そう遠くはないだろう。

 グローバルな市民社会の大部分も、アンデッドの抹殺に対して、それほど極端な反対を行う可能性はない。「ゾンビの権利」という問題は、強力なNGOにとっては、それが寄付疲れや政治的なバックラッシュを引き起こすことを恐れがあるがゆえに、アドボカシー・アジェンダに搭載することを拒むような問題の一つなのだ。

 リベラルなパラダイムは、時間の経過と共に、政治的批判に対しては不完全かつ弱点に満ちた帰結を予測する。それは現時点における欧州連合(EU)によく似ている。そうは言っても、そのシステムもまた、全面的なゾンビ黙示録の亡霊を回避するためには良く機能することが予想される。ゾンビの突発的発生は必ず起きる。国連の援助の下での半永久的な対ゾンビの人道的ミッションは、破綻国家において必要となる可能性があるかもしれない。リベラルは、食屍鬼の恒久的な除去は不可能だと認めているのだ。

 しかしながら、ゾンビ問題を多くの管理可能な脅威の一つに還元することは、予見し得る帰結である。リベラルの語彙を用いるなら、ほとんどの政府は、ほとんどの時間を費やして、ほとんどのゾンビを殺すこととなる。

【『ゾンビ襲来-国際政治理論で、その日に備える』(白水社)より抜粋紹介】

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